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世界を賭けし狂乱事項  作者: ラファ
狂乱事項 その1
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第1章 第1節 すべてのはじまり 前編

<1> 

平穏な日常が嫌いだった。


というのも、つい一週間前までは平穏な日常を好まず、何か身の周りで事件でも起きてくれないかと思うほどに、普段の生活に変化を求めていた。


 今思えば馬鹿らしいことだが、恐らく普通の性格を送る、ごく平凡な人間でいたくなかったのかもしれない。自分はほかの人種と同じように、普通に学生生活を送り、就職して、結婚をして、そして死んでいくのだと思うと、どうしてもやるせない気持ちになっていた。それはそれで幸せな人生なのかもしれないが、人生はたった一度きり。ラノベ主人公のような、波瀾万丈な人生を送りたいと思ってしまうのも、平穏な日常ではない、非日常を好んだゆえの言動だったのだろう。自分という人間が、どこにでもいる普通の人間だと肯定してしまうことが、当時はひどく怖かった。


 そんな自分が、今まさにその願いを実現させているのだが、その時の自分に一言言ってやりたい。お前は馬鹿だった、と。大切な家族、友人、恋人や帰る場所まで失ったのだと聞かされ、まさに絶望の淵に立たされているところだ。目の前の見知らぬ男に、右手に持っているこの世のものとは思えない光の光線のようなそれによって、ほかのみんなのように殺されるところである。死ぬ直前って何を考えるのだろうと、時折考えたこともあった。恐らく、家族のことや、好きな女の事でも考えるのだろうとも思っていたが、その時考えたのはそのどちらでもなかった。自分でもその直前は疑問に思ったが、その時思い描いたのは、その平穏な日常を嫌っていたちょうど一週間前に出会った、金髪でどこかおしとやかさを兼ね備えた、見る人すべてを魅了するような美少女の姿だった。



<2>

 耳に鳴り響く音にせかされ、目を覚ます。時刻は午前7時を指していた。起きた瞬間体が重いのを感じ、睡眠が不十分なのだと気付く。


 「今日は必修科目ないし、サボっちまうかな」


 そう思ったその時、ベットのすぐ脇に置いていたスマホが鳴り響く。携帯をみてそれが親友からの電話だとわかるやいなや、すぐに通話ボタンを押した。


 「おはよう安藤。朝に電話だなんて、珍しいんじゃないか?」


 「おっす信鷹。朝から辛気臭い声出してんじゃねーよ。男前が台無しだぞ」


 このやけにテンションの高い男の名は安藤弘毅。俺と同じ、東京の新宿区にある私立白豪大学に通う1年生だ。俺、織田信鷹の数少ない友人の一人であり、親友でもある。出会ったのは大学からだが、オリエンテーションで席が隣になり、そこから色々あって、現在に至る。まぁ、その色々というのは後々語りたい。大学にちゃんと行ってるのも、安藤がいるからといってもいい。まぁ、他にも理由はあるのだが。


 「で、なにかあったのか?昨日はバイトが忙しくて、今も体がだるいからサボろうかと思ってたんだが」


 またか、と言わんばかりのため息が聞こえてくる。


 「顔もよくて、勉強もできて、おまけに彼女持ちのハイスペック大学生が何を言ってるんだか。それだけ充実してるっていうのに、ほんと毎日退屈そうだよな」


 「だからこそ退屈なんだろうが」


 俺は迷いもなくそう言い放つ。昔から俺は思ったことをすぐ口に出す、いわゆる裏表のない性格をしている。その性格もあって、自慢ではないが人から好かれるような性格はしていないし、むしろ嫌っている人間のほうが多いだろう。安藤はそんな俺を理解してくれる、数少ない人間の一人なのだ。


 「まあ、それは後に話すとして。今ニュースでも報道しているんだが、不可解な騒音によって交通機関に影響が出てるみたいでさ。俺が乗ってる電車も遅れそうなんだよ。だから悪いんだけど、今日の講義で配られるプリントとか、ノートを頼みたいと思って電話したんだ。」


 あいかわらずまじめな奴だなと、思わず感心してしまう。


 「それならお安い御用だ。安藤にはいつもご教授いただいてるし、たまには役に立たないとな。めんどくさいけど。」


 「最後のはいらねーだろ。ま、お前らしいけどな。」


 電話越しから、安藤の笑い声が聞こえてくる。本当にこいつは、心底優しいやつなんだなと思う。


 「じゃあ切るわ。大学についたら、また連絡するよ。」


 「おう、きーつけてな。」


 電話を切った後に、さっそくテレビで安藤の言っていたニュースとやらをのぞいてみる。


 「現在東京都八王子市を中心に不可解な騒音が発生中。一部交通機関が運転を見合わせることを発表しました。騒音の原因は未だ不明で、警視庁が早期解決のため、調査を続けています。」

 

 見慣れたアナウンサーの声を聞きながら、その内容を理解する。安藤はちょうど八王子市に住んでいるので、この様子だと学校に着くのには相当な時間がかかるのかもしれない。


 「他ならぬ安藤の頼みだしな。しゃーねーか。」


 缶コーヒーを飲み干し、いつもの私服に着替えて、大学に行く準備を始めた。大学は家から20分くらいの場所にあるので、交通機関が乱れても問題ないというのが利点だ。

 

 「行ってくるよ、師匠」


 大学へ行く準備を済ませ、自分の尊敬してやまないある人の遺影に挨拶をして、部屋のドアを開けた。


 いつも通りの、平穏な日常を嫌っていた当時の俺はその人の生き方に尊敬の念を抱いており、毎日の挨拶は欠かさなかった。


 現在東京は気温28度。7月ということもあって、外は妙にじりじりしている。湧き出る汗をタオルで拭いながら、大学へ向かって足を運ぶ。この後、当時の俺が好んだ非日常的な出来後が起こることも知らずに。

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