十二月の出来事・③
「大丈夫だった?」
なんとか人混みの圧力から花子を庇ったサトミは訊いた。
「うん。でも、おねえさんたちと、はぐれちゃったね」
「大丈夫。向こうにはツカチンが居るわ。あの人なら必ず巫女さんが手売りしているオミクジを買いに行くはずだから、そこで合流できるわ」
安心させようとしてサトミはウインクをしてみせた。
友人の性癖は完璧に把握しているサトミであった。
サトミの言葉に花子は胸を撫でおろした。
そして改めて人混みの中で、この中性的な少年と二人きりというのに気が付いた。
サトミは彼女の背後に立つ背広姿の背中に手を突き出して彼女を庇っていた。二人の身長差が大きいので半ば抱くようにして、花子のスペースを確保していた。
花子は甘えるようにサトミへ体重を預けた。
「あ、良い香り」
目の前に近付いた胸のあたりから、暖かい香りがする。
ちなみにその胸には二つの膨らみが作られていたが、本当の女の子である花子には、それがパットで作ったまがい物だとすぐに分かった。
花子は、そのまま柔らかい胸の感触を楽しむように、頬をそこへうずめた。
「コロン?」
「正解」
サトミのこたえは音でなく振動で感じられた。
「ねえサトミ。あなたは本当に男の子なの?」
その温もりから顔を上げて、花子は前からの疑問を口にした。その質問にサトミの目が細くなる。それまでどこから見ても女の子の印象しかなかった郷見弘志が雰囲気を変えた。
「自分でも自信が無くなる事があるよ。オレは何者なんだろうかって」
花子は彼からできるだけ離れ、下からその中性的な顔を覗き込んだ。
「オレは、実はもう死んでいて。ここにいるのは残された何かなのかもしれない。オレより強いヤツは沢山居た筈なのに、もうドコにもいないから。それともこれは夢の中? 本当のオレは病院のベッドで昏睡状態で息をしているだけの存在なのかもしれない。それが本当なら、これは神さまのイタズラ? 考えたらキリがないよ」
弘志は取り敢えず微笑み返してみせた。
「サトミってさ。誰かとつきあってるの?」
視線を逸らせた彼女に、弘志は目を一回丸くしてみせた。
「残念ながら特定の女性とはつきあってませんが。もちろん、男性ともね」
真剣な顔をして、ただ視線を横に逃がしたまま、花子の質問が続く。
「じゃあ、サトミが好きなのは誰? 王子? コジロー? それとも不破くん?」
「難しい質問だね」
弘志は考える顔になった。もし人混みの中でなかったら、腕組みをしていたかもしれない。
「実は岡さん、君だったりして」
「え?」
突然出てきた自分の名に、花子が目を丸くする番だった。
「このまま二人で抜け出して、夜の町へなどいかが?」
姿は女の子なのに顔だけが別人になった弘志が、ニイッと下心丸出しの嗤いを浮かべた。
「冬の夜は寒いもんね。どこか暖かい部屋のベッドの中なんて、どう?」
「ちょ、ちょっと」
ずいっと距離を縮められて、花子は弘志に両手で突っ張った。
「遠慮しないでさあ」
そして年越しの瞬間、神社が打ち上げた花火の音に、頬を張る平手の音が紛れた。




