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雪の妖精

 二階に続く階段には、氷が張ってツルツルとしていましたが、カエルは滑ったりせずに壁に張り付いて進んでいきます。なにせカエルはカエルでしたので。

 そうやって登って行くと、辺り一面雪景色。柱のように太い手足を付けた雪ダルマ、雪の妖精が立っていました。

 雪の中、挑戦者の人々は、雪の妖精に殴り飛ばされ、壁に叩きつけられていました。

 挑戦者のひとりは大きなハンマーを構えました。あれだけ大きな物、水の妖精の中を泳いで持って来たと思うと、挑戦者の努力も並大抵ではありません。

 大きく振りかぶったハンマーは狙い通りに雪の妖精の頭部に降り降ろされましたが、雪の妖精は気にも留めず、逆に挑戦者を殴り飛ばしました。


 ズシーン。


 雪は押してもギュッと固まるだけで、崩れたりはしません。

 油や火薬を持ち込もうにも、一階の水の妖精がいるため、大掛かりな物は二階まで運べないのです。

 他の挑戦者たちを、凍り付いた階段から滑り台のように落として追い払ってから、雪の妖精はカエルを見下ろしました。


 「次は、お前か?」

 「僕は痛いのは好きでは有りません。お話をしてくださいませんか?」

 「ほう? お世辞でも言って通る作戦か?」

 「いいえ。ただあなたのことを教えて欲しいんです。あたなの素敵なオレンジ色の大根は、なんですか?」

 「大根だと? 俺の鼻が大根だと? お前は、お前は、お世辞でも云っておけばいいものを。俺を怒らせたぞ!」

 「これは、失礼しました。気に障ることを云ってしまいましたか?」

 「気に障るとも! 気に障ったとも! 俺の自慢のニンジンの鼻を、白くて大きいだけの大根なんぞと一緒だと!」

 「間違えてしまってすいません、ですが、大根は決して白くて大きいだけではありません。そうだ、ちょうどお弁当に持っていました」


 カエルは弁当袋から、たっぷりダシの染み込んだ大根を取り出した。


 「おいおい、白い大根だと云ったのは誰だ? 茶色いじゃないか!」

 「これは店長さんがしっかりと煮込んで作っているからですよ。最初から白ですが、手間暇かけて、この姿になっているんです」


 そんなバカなと、雪の妖精はパクリとダルマのような口をパックンと開けて一口で食べました。


 「……暖かい、ものだな。大根というのは」

 「そうでしょうとも。大根はオデン鍋の中で、オデンの歴史を一番よく知る、汁を吸うオデンダネです」


 そこまで云って、カエルは急がなければ他のオデンダネが冷めてしまうことに気が付きました。


 「すみませんが、通って行ってもよろしいですか? 雪の妖精さん」

 「構わんが……俺の鼻のニンジンも、鍋で煮れば、こんなに暖かくなるんだろうか」

 「なるでしょうとも。オデンにニンジン、きっと美味しいと思います」


 お弁当袋を担いだままでも、カエルは小さな足跡を雪に残してピョコピョコと歩きました。なにせ彼はカエルですから。

 このとき、カエルも雪の妖精も気付きはしませんでしたが、雪の妖精の身体の中は、夏の山のように緩やかな温度になっていました。

 雪の妖精は、カエルとの会話に心が温かくなり、大根に身体が温かくなっていたので、それは当たり前のことでした。


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