準備
「すみませんが、店長、以前に云ってくれていた休日というのを頂きたいのですが」
「……ああ、良いぞ。行って来い」
店長さんは普段から口数の少ない人でしたが、とても良い人であることをカエルは知っていました。
冬眠しないようにダシ汁に使うお湯を使ってお風呂を作ってくれるときも、火傷しないように、それでいて寒くないように調整してくれていたことをよく知っていました。
店長さんも、大声を出すのが苦手な自分の代わりに吹雪の中でもお客さんを呼んでくれるカエルに感謝していましたし、そのお礼を言葉で云えない自分をもどかしく思っていました。
口にできない分、手を動かす職人気質の店長さんは、カエルに贈り物を作りました。
「ありがとうございます、それはなんですか?」
「……服」
モチ巾着というオデンダネに使う油揚げの袋を二重にして、中にちょうど良い温度にしたモチを入れてカンピョウを糸代わりにして縫い付けてくれていました。
他にもいくつかのオデンダネを雪の上を動かしても中身が濡れたり冷めないように袋に入れて渡してくれました。
お弁当だとカエルにはすぐに分かりました。給料代わりといって持たせてくれたのです。
「……冬が終わったら、オデン屋は移動だな」
「お話を聞きに行くだけでですよ。女王さまに会いたいだけですから」
「……別に冬を終わらせても良いぞ。黒ハンペンのフライだけで……まあ、居酒屋代わりにはなるさ」
この国の油は良いからな、と店長さんは続けました。
カエルも、そういえば日に日に黒ハンペンのフライの出る数が増えていることに気付いていました。
旅をしていれば、色々な物に出会う。そう思いながらカエルは、油揚げの巾着服を着て、お弁当を担いで走り出して……というより、跳ね出していました。