静寂
ものすごく、沢山の人達の歓びを受け止め、勇者さまパーティからも歓びを返す。そんな、気持ちの交換をしながら魔法馬車は、長い時間をかけて、王城へと、到着する。
「ありがとう。いい、添乗だった。」
「大きな旅程変更もあったが、無事つけたようだ。」
「楽しみを沢山見つけてくれて、心が洗われたよ。」
「これからは、セオ、いやセオロナさまの奥さまとして」
「旅行者と添乗員以上の関係を気づきましょう。」
パレードエリアをこえて、王城入り口に差し掛かり、ふと訪れた静寂の一時、皆さんが添乗員への労いの言葉をかけてくれた。日帰りの添乗でも、おりる前にこのような言葉をかけて下さるお客さまがいて、別れがたくなっていた日々を思い出す。旅の終わりはいつも切ない。
王城への架け橋が下りてくる。凱旋パレードの馬車のままそこを通り抜けると、ものすごい数の騎士さまが、敬礼で出迎えて下さる。通路両脇に一列にならんだ様子が壮快だ。その間を通り抜けると立派な両開きの扉、扉に近寄ると両側を同時に開いてくれる。
両開きの扉は自分であけるものではない、人に開けてもらうための扉だとしっかり学習していたため、どうやらここでは恥はかかずにすんだようだ。扉は常に先まわりして開ける、添乗員として気遣いの基本を反射的に行っていたし、こういう反射的な習慣には今後も気をつけなければならないだろう。
王城は通常、絨毯をずっとずっとたどっていけば、謁見の間や儀式の間に出るものだと思っていたが、ご一行様が向かわれたのは上り階段ではなく、奥にある少し影になっているような扉だった。
「どちらに?」
と、問いかけるとセオロナさまが答える。
「儀式のはじまりは、任務完了のための武器の返納となる。すでにライオスの滝で穢れは清めてきたが、最終的にこの王城の奥の、祈りの間に封印する。この武器は魔王や魔獣の邪悪な魔に対して効果のあるものだから魔王の存在しない時代に使うことがないからね。あってほしくはないけど、次代の魔王と勇者が出現した際にまた取り出されることになるんだろうな。」
扉の奥の武器ケースは、勇者さま以外は開けることも閉めることもできない不思議なものだという。
そのケースには、勇者さまのもつ長剣、賢者さまの杖、レンジャーさまのアーチェリー、パラディンさまのハンマー、踊り子さまの短剣をきっちりしまえるスペースがあり、そこに勇者セオロナさまが、各武器を納めていく。
浄めた武器を納めることで、パーティの方の辛い記憶はすべて忘れて下さるといいなあ。
パタンと、ケースが閉められる。
暫くの間は、パーティの皆さまと一緒にただ、静かに平和への祈りを行うだけの静寂が続いた。