パレード!パレード!パレード!
この世界に来た初日。寝起きスーツ姿の私は、シャンタ町の宿屋でおかみさんから王都の名前を聞いたのを思い出した。
『グランドティナサーラ城下』これこそが、今回の勇者さま帰還の地。
思えば、あの日から3カ月少々の短い期間に、わたしの人生は180度どころか360度を5回まわってさらに180度いった感があるぐらいの変化を遂げた。
今では、詰め込み学習の効果が、グランドティナサーラ国がこの世界3大陸53カ国のうち、5大大国と呼ばれている国々の1つであることまで知っている。そして、その大国の王太子さまの従兄弟であるセオロナさまの妻(でありながら添乗員業務)として、王都に帰還するのだ。
セオロナさまは勇者服。白いパリパリシャツにベージュのウェストコートを羽織り、少し明るめのベージュのパンツを合わせる。エリアルさまは賢者服。漆黒の長袖ローブを渋めに着こなしておられる。クレイさまはレンジャーでグリーン地のワイルドな服装、ブルートさまはパラディンらしく重々しい鎧を装備されている。
そして、ライユさまの踊り子がすばらしい。抜群のプロポーションにフィットした赤い服の上に、7色に光るオーガンジーの布を垂らし、妖精でもここまでかといわんばかりの華やかさを醸し出している。
私は、といえば、魔王討伐にはまったくかけらも協力させていただいていないとはいえ、パレード気分を盛り上げるため、クリーム色のくるぶしまでのワンピースに月桂樹で作った王冠をかぶって、勇者の女神イメージで作り上げられていた。
そんな服装で、魔法馬車の上半分を切り落として、キランキランに飾り付けられたパレード用の馬車で、王都に向かう。
王都の門の前、精霊王女さまの約束通り、デコられたバスが止まっていた。ちゃんとエンジンもかけられて。本当はここ、最後の決断を行う場所なのだろう。だが、私の決断は、ゆらぐことなく私にとってデコられたバスはいまやただの景色の一つにすぎなかった。
こんなに素敵な仲間、家族、そしてまだごくごく一部しかみていないが、国。今更、忘れることはできそうになかった。
王都の門が重々しく開く。
をおおおおおおおおおおおおおおおお。どこかのスタジアムを思わせる大歓声の後、誰からともなく始まった手拍子のリズムが周りの人たちを巻き込んで、揃っていく。
王都は、立派な統一感のある都市だった。淡いベージュのレンガ仕立ての家や、商店がいくつもいくつも並んでいる。大きい家や、集合住宅なのかなみたいな家、商店も飲食店・洋装店・小物販売店などいろんな種類のものが、味のある木製看板を掲げて営業しているようだ。そんな街並みを中央でちょうど切れ目をいれた感じ、王都入り口の門からまっすぐな道がおそらく数キロという単位になるんだろう、ずううううううっと続き、城下町を見下ろすように建てられている王城へと続いている。
そのセンター通り、今日はパレードのために、ちょうど真ん中ロープが張られたうえ、警備兵の方々らしきひとが交通整理をされて、馬車1台分と少しのスペースがあいていた。
いつもは早馬ペースの魔法馬車速度だが、王都に入ってからはスピードを半分ぐらいに落とし、城下の方々に手を振りながら進んでいく。
おそらく数千人以上の人数だろう。この世界に到着したときの街と同じような中世欧州風の装いをした城下の方々(と思われる人)が手拍子をうちながら迎えてくれている。
手拍子の威力ってすさまじい。
はじめは優雅に手を振るセオロナさまや投げキッスの魅力をまき散らされているライユさま(すみません、何人もの男性が鼻を抑えて上を向いてますが、まさか・・・。)に隠れ、首をすくめて縮こまりがちだった私も、暖かい拍手に迎えられているうちに、歓声に向けて手を振るようになっていた。魔王討伐には、全く協力できなかったけど、魔王討伐後に生まれた、グレイスとともに、この世界・この人々のためにできること。それだけを考えて、この世界が私に与えてくれた恩恵にお返ししていこう。私の中に、そんな決意を芽生えさせるほどの、すばらしいパレードだった。