どれにしようかな
『般若と過ごす欧州旅行』な、2ヵ月間、辛いことばかりではなく、心踊る一時もあった。
楽しい時間の一番は、公爵夫人、ライユさま、ナターシャさん、お母さんとの『衣装合わせ』だ。
到着したときからクローゼットには、数着のワンピースがかけられていた。しかし、王都に一度帰還すれば、ここでの育成付け生活と異なり、社交の場をこなしていかなければならない。
お茶会、夕食会、絵画鑑賞会、音楽鑑賞会、公園散歩、セレモニー・舞踏会は王族主催のものから個人主催のものまで、と常にTPOに合わせた服装をして出席する。
1日1枚どころか、1日のうちに3.4枚もの装いが必要となるのだそう。そのための服をオーダーメイドで発注する。
布見本が数十種類、デザイン見本もTPO別に数十種類がある。とりあえず50枚ぐらいの洋服を仕立てるって、なんて楽しいんだろう。
贅沢すぎて怖いけれど。公爵家の威信のためと言われたことを自分への言い訳に心から楽しむことにした。また、上級貴族と言われる伯爵家以上の方々は人前で同じドレスを着ることはないと聞き、もったいなすぎて受け入れられなかった。しかし、一度着てもらい古着として価格を下げてもらうことで、その布地を再利用リメイクして着ることができるようになる踊り子さんや役者さんなど市井の方もいるそうで、そのための貢献として納得することができた。
今の流行りは2色使い蝶々の飾り。そして、ベース生地に花や蔦の部分絵柄を入れて、そこに飾りを着ける。立体感のある装い。私はこのタイプを白地にグリーンの蔦タイプとクリームイエローに白の花柄タイプの2枚、お茶会ドレスとして仕立てた。散歩用や鑑賞会用のワンピースも上品に見えるくるぶし丈のワンピースを赤、シルバー、オフホワイト、小花柄等どんどん布地とデザインを指定していく。特に腰のリボンをかなり眺めに垂らすデザインが優美で素敵だ。
舞踏会用のドレスは基本となるシルエットを決め、薔薇だったり、リボンだったり、レースだったりの着け飾りを重ねていき全体の形を作る。今回はストーンと落ちて裾に広がりを持たせるシルエットのタイプが5枚、ふんわり広がるスカートのものを5枚、布地を次々と体に当てて大きな鏡の前でイメージを確認する。大胆に斜めフリルをつけたものや、オーガンジー生地でスカート部分のみをかこって光具合を綺麗に見せたもの、可愛らしく繊細にパールを散りばめたもの、シンプルに2色の布地を組み合わせただけのものなど、イメージががらりと変わるように見えるタイプのものを作っていった。
舞踏会ドレスのシルエットに合わせた、立ち居振る舞い練習用ドレスも作ってもらった。練習用ドレスは汚れの目立たない、濃い色のもので本ドレスよりは若干グレードの低い生地でつくって、練習期間があるので先に納品してもらう約束をした。
ドレスが終わった後の小物選びもまた、至福の時間だ。布地の色の上にいろんな宝石を置いて最高の組合わせを探る。あとは小さなバッグ、ハンカチまで似合う小物を選んでいく。
全ての選択が終わるとお見積の時間となり、莫大な金額になったに違いないが、公爵夫人は内訳の不明点のみを確認するとにこやかに頷いておられた。
採寸もきっちりきっちりしていただいたので、この2カ月間、ハードな育成のストレスで食べすぎたりしないように注意しなければならないな。