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甘い散歩道

 募るお話は、夕食時間のお楽しみと、挨拶の場はさらりとすまされ、一旦解散となる。

 愛すべきベイビーグレイスは、お母さんが抱きかかえてアトリエに。しばらくは沢山食べて沢山寝ることがお仕事だそう。アトリエにふわふわクッションに囲まれた専用部屋が設えられているらしい。おーっ、幸せ感いっぱい。わたしもそのお部屋でもふもふしたい!との誘惑にかられたが、まだまだ赤ちゃんの睡眠時間を邪魔するわけにはいかないため、しばらくは我慢である。


 私も、専属メイドさんとなったナターシャさんに、お部屋に案内された。

 お部屋はライトグリーンにクリーム色の花模様がストライプに描かれた壁紙に囲まれた可愛らしい部屋だった。絨毯はクリーム色に小花が散った模様入り。そこに白地レースの天蓋つきのベッド、ドレッサー・ティーテーブルが、ちょこんと置かれている。また、入り口とは別に扉があり、開けると広いウォークインクローゼット。そこには、普段着のような割りとシンプルな(でも、シルク製)ワンピースが、数着カラフルに置かれていた。


 このお屋敷にはコットンワンピより、シルクワンピがあうと、ナターシャさんが着替えを勧めてくれた。この世界だと不思議に派手すぎず似合ってしまう山吹色地に藤色サッシュベルトのワンピに着替えてみた。おおー自分で言うのも何だけど似合うー。おかっぱから少し伸びた髪にゆるめにカーブをつけ、耳横にサッシュベルトと同色の飾り花を着ければ、完成だ。


 こんな服を着てお姫様部屋で数ヵ月を過ごせるなんて、ウットリである。


 コンコンとノックがされて、セオロナさまが入り口でお待ちだと告げられる。

「庭を案内させてくれないか。」

  との、素敵なお誘いだった。


 お庭は庭園美術館のイメージ。草花たちが色々な絵画を描いていた。『湖畔の赤い屋根のおうち』、『白い帽子の少女』、『花で描かれた生け花』なんてのも。花の絵画のみではなく、勿論、以前第5別邸で伺った理由により勇者さまの邸宅に置かれたであろう素人目にもタダ者じゃない的な風格を持つ屋外彫刻も数多く並べられている。そして、それら一つ一つに対して、最も良い角度から眺められるよう、計算された散歩道が設計されているところが、このお屋敷の凄いところだ。


 この庭園だけでも、バスツアーが開催できそうな充実した散歩道だ。

 そして散歩道の先には、ティーラウンジがあり、ガラスに囲まれた小部屋で、お茶が飲めるようになっている。庭園美術館をガラス越しに眺めながら、憧れのハイティを楽しむ。バスツアーというより海外旅行の現地ツアーといった趣か。

 そして、そのイメージ通りの3段ハイティセットがすでに準備されているのも流石さすがだ。人払いをされているのか、アツアツの紅茶を数種類、二人きりの空間に残してくれている。


 ハイティを楽しみながら、セオロナさまが語る。

「ごめんね。僕の気持ち、ちゃんと正面から伝えないまま、いろんなことが重なって、何段も順番を飛ばして婚約者として滞在なんて。僕たち貴族社会では、全てのお膳立てが先行してて、2度目に会った時には婚約なんていうことも、普通だけど、瑠奈さんの世界では違うかもしれないね。でも、僕の気持ちは、ベイビーグレイスも証明してくれているとおりだ。純粋に瑠奈さんを妻として、勇者としての一生を歩んでいきたいと思ってる。もちろん、瑠奈さんにも、故郷があり、生きてきた道もあると思う。その延長線上を超えるようなすばらしい道づくりを僕は瑠奈さんとならば約束できる。だから、このまま一緒にいてくれないだろうか。」


 すべて流されるままだった私たちの関係。私のために母まで招待いただいたし、そのままでも充分だった。

 でも、ここで敢えて、正式な申し入れをしてくれるセオロナさまの誠実さと優しさに涙が自然に頬を伝う。


「ありがとうございます。正面からきちんと言葉にしていただいて。」

 私も、誠実な気持ちで自分の気持ちをちゃんと伝えなければ。


「私の故郷は『母』、そして生きてきた道は『旅』です。子供のころからずっと、母と旅について語り、実際に旅を重ねてここまで来ました。母がここで生きる決意をしてくれるというのなら、故郷も旅もこの世界にすべてあります。そして、この世界で私が共に生きていきたいともっとも望む人はセオロナさま、

 あなたです。これからは、二人でこの世界中の皆さまと共に幸せを作っていきましょう。」


 セオロナさまは優しい微笑みを浮かべ、ずっと私をみつめてくれていた。

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