神殿へ
第5別邸の皆さまからの暖かいお見送りを受け、一路、神殿に向かう。
魔法馬車を走らせていると、セオロナさまが呟く。
「なんて数の精霊だ。風も光も大地も。」
どうやら神殿に近付いてきたようだ。精霊の見える勇者さまでないただの人間の私ですら、空気が異常なほどすみわたるのを感じる。
深い森の木々の合間から差す光に照らされて表れた。天高くまで伸びているように感じる柱に囲まれ、白くそびえたつ『はじまりの神殿』だ。
空と海の恵みを受けたボトルと大地の恵みを受けたリンゴを持って勇者セオロナさまが神殿に足を踏み入れる。そのあとにパーティの皆さまが続き、私も後ろに続いた。
神殿の中は天井は恐ろしいほど高く、ひんやりした空気と柱の合間からもれる薄あかりで神聖な気持ちが高まる。どこまでも静かな空間なのに、賛美歌が聞こえるように感じるのはこの荘厳な雰囲気のせいか、集まる精霊のせいなのか。
奥に足を進めると石碑が。ただ、文字は何も書かれておらず、海に落ちる陽の絵柄が書かれてあった。
ここで、ボトルの水をかけるらしい。
水をかけると、「魔王とは」から始まる文字が石碑に表れる。
『魔王とは、人類の憎悪・嫌悪・傲慢・欲により犠牲となった者の堆積された涙の化身。そして、魔王は生まれた後、より多くの涙を吸収して成長するとともに、悪感情のもたらす結果を目に見える形で人類に見せるため、魔獣の形を取って世界中に散布した。
勇者の役割とは、この過去に堆積した涙を浄化すること。そして、再び涙が堆積し、魔王が出現することがないよう我とともに世の平安に務めることにある。我の手伝いを必要とするなら、勇者が一人で、奥の扉を開けて進むがよい。』
「我?ってどういう意味だろう。浄化自体はおそらく、魔王を討伐することを指していると思う。」
エリアルさまが、学んだ古代勇者学でも残された文献は、はじまりの神殿に到着するところまでしか残っておらず、この後のことはわからないという。」
その時、私たちには何も聞こえなかったが、セオロナさまには、ある声が聞こえたそうだ。
『大地の恵みは、光輝く人に』
と、セオロナさまは差し込む光に照らされた私にリンゴを預けた。