森に還るもの
盛り土をして、その横にライオスの滝水に野生のマーガレットを活けた花瓶をおく。
みんなで、祈りをささげていると、ライトくんの胸から飛び降りたプロンが跳ね、花瓶を倒した。
「うおおおおおおおおおおおおおん。」
森の奥からの遠吠えが聞こえ、クレイさまが顔をあげる。
プロンが、森に向かって駆け出した。
「プロンまでいってしまわないで。」
と、追いかけそうになるライトくんをブルートさまが止める。魔獣がいなくなったといえ、森は8歳の
子供が飛び出して行って安全な場所ではない。
ライトくんはしばらく、ブルートさまの胸の中で暴れていたが、
「待ってみましょう。」
と、エリアルさまが賢者さまらしい威厳でいうと、エレナさん・ライトくんもしぶしぶながら頷いた。
家に戻りながら、私は、ライトくんの気持ちを少しでも盛り上げようとご提案。
明るい声はこの場にそぐわないかと思ったが、待ってる間に気持ちが押しつぶしてしまうよりは、空気が読めていない方がましだ。
「勇者さまの乗る、魔法馬車を見学しない?サンドイッチもあるし、魔法馬車もちょっとなら乗せてもらえるかもしれないよ。いい、ですよね?エリアルさま。」
「もちろんだ。まずは一緒に朝食を取ろう。その前に今日のミルクティ用に少しいいかな。」
と、なんと近くの牛を指し示す。
な、なんと乳しぼりでしょうか?添乗員として牧場には何度かお客様をお連れしているけど、しぼったことはないよー。無理、無理ーーーー。
「誰も、瑠奈さんに絞れとは言ってないよ。でもバケツを持ってきてくれないかな。」
セオロナさまはいつも通りのやさしさでかばってくれる。
「バケツぐらいいくらでも取ってきます。」
馬車にダッシュして戻ると、セオロナさまが私に変わって牛の近くに腰かけてた。
乳牛の隣にブロンドの王子様の図に私は吹き出すのをこらえるのを必死に我慢しながら眺めていた。
勇者さまにも苦手なことってあるんだ・・・。子供のころから人より劣るものがなかったと言っていた
セオロナさま。それが、こんなに。
右、左にミルクを飛ばしながらも、がんばっているご様子。
「もういいよ。ほんとやったこともないのに瑠奈さんに甘いんだからな。」
「いやいや、レディをかばうのが紳士の仕事で。」
と、ついにはクレイさまに場所の明け渡しを要求されていた。
かわいい。かわいすぎるんですけど。セオロナさま・・・・。やっぱりどうあってもセオロナさまのことは贔屓目に見てしまうな。私。
こんな、ほのぼのとした一行をみているうちに、ライトくんも元気が出たようだ。
絞りたてのミルクを使ったミルクティもサンドイッチもたっぷりと平らげた後、瞳を輝かせて、魔法馬車の中を探検している。特に秘密基地を思わせるキャンピングカー仕様のセカンドカーは男女を問わず、子供が興味をいだくのには鉄板な場所。小さな引き出しに至るまで開けたり、閉めたりといつまでも遊んでいる
この村の大きな木にもツリーハウスが作れるといいななんて思いながら、私もライトくんと遊んでいた。
お昼をかなり回ったころ、エリアルさまが呟いた。なぜか村の外を見ている。
「どうやら、お帰りのようだ。」
目線の先には、象牙色の長い毛をもつ成犬とクリーム色の毛玉ではなく子犬。
ちぎれんばかりにしっぽを振ってこちらに走ってきている。子犬の方が転がっているといった方が正しいぐらいだ。
「先ほど、滝の水の効果でロンの生命が戻ったのを私も感じてたんですが、期待させて戻らなかったらと
思うと言い出せなくて。本当なら滝の水は、精霊や卵としての生まれかわりの効果なのですが、今回は核となる珠を護った碧の湖水と聖なる滝水の相乗効果だったんだろう。」
クレイさまの優しさが起こした奇跡なのかもしれない。
ライトくん、ロンに抱きつかれて、おおきく転びながらもいつまでも2匹とじゃれあっている。もう笑い声がはじけまくっている感じだ。心なしか村の寂寥感すら消え去ったようだ。
あまりにも幸せな時間にいつまでもここでこの2匹とともに遊んでいたいな、せめて1泊はできないんだろうかと心惹かれたが、添乗員は旅程担当ではない。
そして、旅程担当のエリアルさまが一言。
「では、この続きの旅程をいいますね。はい。魔法馬車に集合。」
エリアルさまって、威厳があって素敵な容姿なんだけど、もしかしてドSなんじゃないかと疑ってしまい、ドS旅程管理者がいるなら私の仕事ってなんなんだろう。と、考えつつ、私馬車に乗り込み手帳を取り出した。