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「勇者さまご一行、こちらでーす。」添乗員はじめました。異世界で。  作者: 爽村 愛
平和の森からシーズナルブラン村へ
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シーズナルブラン村へ

 湖から引き揚げた金属の箱は、ジュエリーボックスのようで、クレイさまが大切にしていたものじゃないかな。でも、クレイさま、いえ、このご一行さまはものよりも大切な何かのためなら、ものなんて平気で投げ打つ人たちに違いない。


 数日間を一緒に過ごしただけで伝わる勇者さまたちの運命の重みと絶大な優しさを感じながら、大きなポリ袋の中に湖の水を詰めその碧の中に再度箱を鎮める。クレイさまや皆さまの目が心底愛おしむように碧に沈めた箱を見ていた。

 さて、急いでシーズナルブラン村に向かわねば。

 その日は、昼も夜も馬車のテーブルで簡単にすませ、早めの就寝。ひたすらシーズナルブラン村へと魔法馬車を進める。


  早朝、まだ朝もやの中、魔法馬車は村の入り口で止まっていた。

 静かな村。ぽつんぽつんと民家が並び、牧草地に畑が点在している。


  朝食より村にロンを還してあげたいだろうな。そう思って、皆さまが起きだす前に簡単につまめるサンドイッチを作っておき、ジューサーで野菜とフルーツのジュースは作っておく。

 新鮮な牛乳とか、やぎのチーズとかありそうだなと、村を眺めつつファーストカーに移動して昨日の出来事を日報にまとめる。まずい、書いているだけで涙が出てきた。


「泣いてるの?帰路とはいえ、運命を背負った旅に連れてきてしまって悪かったかな。でも、瑠奈さんがみんなの気持ちに寄り添ってくれていることで、助かっているんだ。」

 セオロナさまが入ってきていた。

「僕は、勇者に選定されたと聞いたときには、すーっと受け入れることができたんだ。それは、生まれた時から勇者という運命を背負っていたということなんだろうね。子供の時から何をしても負けることがなかったことも運命の一環だとわかったし、周りの精霊の喜びも感じることができたしね。」

 やはり、勇者さまというのは生まれたときから何かが違うんだ。


「ただ、勇者の仲間たちというのはどうなんだろうと。魔に侵されたものたちとはいえ、沢山の命を奪い消滅させる。それが、運命なのか、巻き込まれてしまったと感じるのか。本当のところは僕にもわからない。みんな、そんなつらいことを感じても弱音を吐くような人達じゃないからね。だから、君が勇者一行を迎えてくれたとき、屋根裏でこじんまりとした小さな喜びをみんなに与えてくれたとき、嬉しかった。称えられて喜ぶだけじゃなく、巻き込んでしまった世界と全く違うものに触れて笑ってくれるみんなを見てね。だから、君を連れてきてしまった。こんなわがままを許してくれるかな。」


「許すも許さないも、添乗員は与えられた旅程の中で、ご一緒するお客様の時間を最良にするのがお仕事です。しかも、添乗員の私までこんな心震えるような旅。許すどころか、お金を払ってでも連れてってほしいぐらいですよ。あ、払うお金はありませんし、お給料もらえるほどの添乗員の働きもはっきりとできてはいませんが。」

 なんだか、まっすぐに見つめるセオロナさまの目線に照れてはぐらかすような言い方をしてしまっているけど、世界・パーティ・自分といろんなものを見つめて、気を配って、大きな運命を乗り越えるセオロナさま、本当に素敵でついてこれた幸せは常に感じている。

  「あと、一つだけ、言っておきたいことがあります。勇者さまご一行は、沢山の命を奪う運命なんかじゃ決してありませんから。魔からすべての命を救い守り通したことだけ、記憶にとどめておいてください。」

 あ、世界の勇者さまに対して偉そうなこと言っちゃった。


「ありがとう。そういう考えでいることにするよ。」

 素敵すぎるセオロナさまの微笑みに、ほてる頬を覚ますため馬車を降りた。




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