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「勇者さまご一行、こちらでーす。」添乗員はじめました。異世界で。  作者: 爽村 愛
平和の森からシーズナルブラン村へ
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碧の意味

 洞窟を目的地と話していたけれど、本当の目的地はここエメラルド色の湖だとエリアルさまが説明される。


 旅の往路、つまりは魔王討伐の旅では、この洞窟の外の森は魔獣がたくさんいた。魔獣は小物たちの他に、その場所ごとの主のような存在のボスがいたそうだ。

 小物の魔獣たちは、精霊と同様、元の存在は見えないもので、魔を吸って核を作って実態化するもので、勇者さまの聖なる剣で斬られたり、聖なる魔法で滅ぼされたときは、そのまま消滅するものだそう。

 しかし、ボスの魔獣は出現の経緯からして違ったらしい。その元の存在は、ふつうの獣で、「魔」に触れてしばらくで見た目も中身も、魔獣へと変化していき、あたりにはびこる小物魔獣を従え、人間を襲うようになったという。また、そのボス魔獣については、聖なる剣で外観は消滅するが、最後に核となる光の珠がしばらく残り、やがて土へと消えていくようだった。


 ある日、この付近の森で出会った魔獣の主、見た目はヤマアラシをピンク色にして巨大化・凶暴化したもののようであったが、クレイさまがその魔獣と対峙したとき、あることを感じたそう。

 この魔獣、村にいたロンだ。ロンというのは、この先にあるシーズナルブラン村で保護した傷ついた野犬が生んだ子犬で、人間の手で育てられ、村の雑貨屋の看板犬として人々にかわいがられていた。

 しかし、魔獣の増えた世の中で、村に時折現れた魔獣が飼い主の少年を襲おうとした際、身を挺して、かばい魔獣に噛まれてしまった。その傷から魔に触れたロンはとても頭の良い犬であったため、自らの魔獣化を感じたとき村人を襲わぬように、変化していく体を圧して村から離れる方向に森を進んでいったという。


 シーズナルブラン村は王都からクレイさまのご実家の領地である国境近く、エンディア地方とを行き来する途中にあるため、クレイさまは何度かロンとあっていた。そして、動物・植物あらゆるものの個体を感じるその能力で魔獣の主がロンであることを感じ取ったようだ。


「ロン」

 対峙した際、名前をつぶやいたクレイさまに、魔獣の主は一瞬動きを止めたものの、人を襲うよう本能を書き換えられた運命を覆すことはできなかったらしい。全力でクレイさまに牙をむき、襲いかかる。

「クレイには射たせるな。僕が勇者の務めを全うするよ。」

 そういって、寂し気にセオロナさまは聖なる剣で斬りつけた。

 最後に目があったら、泣いているように見えた。そう呟いて、セオロナさまは魔獣が消えた後の光の珠を拾い上げた。その珠は、魔獣になる前のロンの毛色と同じ象牙色だった。

 クレイさまは、その色をみて、膝を折り、その場に泣き崩れた。

「土に還すのは待ってほしい」

 そういってクレイさまは珠を受け取り、金属性の箱に大事にしまったうえで、この洞窟奥の湖まで運び、湖の水に浸した。


 この湖の色は、勇者の瞳の色と同じ碧。その色には意味があって、どんな魔も寄せ付けず、穢れることのない湖なのだとエリアルさまが説明する。

 そして今日、クレイさまはその箱を湖から引き揚げ、湖の水と一緒にシーズナルブラン村に運ぶためここに来たそうだ。


「魔の消滅した今、土に還るならシーズナルブランの地がいいと思ってね。」

 どんな生き物にも、いや植物も含めすべてのものに優しいクレイさまの想いをに、涙があふれた。


 そんな私の背中にふれる、セオロナさまの手が優しすぎてますます落ちる涙を止めることができなかった。





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