洞窟の中へ
到着っといっても洞窟の前じゃないのね。洞窟のある崖の下。崖とはいっても、ほんの平屋の屋根の上に登る程度の高さだから・・・・。
って、そりゃあ勇者さまご一行は全員、常人をはるかに超える身体能力を誇られているわけだし、ここでいいかもしれないけど、私・・・・。はっきり、凡人のふつうの添乗員で。
とか、考えているうちに、スルスルと、全く躊躇することもなく、クレイさまとブルートさまが縄と抱えて崖を登る。
上まで来ると、ガツンガツンと輪っかのついた杭を打ち、杭の輪っかに縄をかけて下に放り投げる。それを受け取った、エリアルさま、ライユさまは縄を手にこれまたスルンスルン崖に足をかけながら登っていってしまう。ライユさまなんて優雅すぎて、ここでもダンスにしか見えませんね。
ここまで、皆さん言葉を交わして相談するまでもなく、目で合図しながらさくっと終えられるんですが。
チームプレイもすばらしく、悩むところじゃないんですね。怖気づいている私が、普通じゃないようにみえてるんですが、いま。
どうぞ、私を置いて行ってください。の心境だけど、森の中だし、動物とか出ても一人じゃ怖いな、どうしようか。添乗員だったら空気読んでさくっと上がって来いよとか思われてるかな。
ふっと、腰に腕を回された。なんとセオロナさまに!?そしてロープを命綱替わりに巻き付けられる。
「大丈夫、怖がらないで。瑠奈さんは、ふつうのレディだから僕に手伝わせて。」
こっちを見つめて、その言い方、反則です。
優し気な声とは対照的に、腰に回された手は力強く、私を抱いていて。
「決して、不純な動機ではないから、僕の肩に手をかけてしっかりこっちに体重かけてもらっていいかな。」
どんくさい、私。万歳!なんて不純な気持ちを打ち消して、セオロナさまに抱き着く。う、心臓ばくばく。セオロナさまにこのばくばくが聞こえたら、高いところにいく恐怖からだと思ってくれることを祈っておこう。
小柄な私とはいえ、人ひとり抱いているとは思えないほど、軽々とセオロナさまは片手にロープを握り、足で崖を踏みしめて上がっていく。
私はというと、整った顔に、汗が伝っているのを真近にみたり、顔が赤くなるのを見られたくないのと、自分の欲求に忠実に(怖いのももちろんあったけど)セオロナさまの胸に顔をうずめてみたりと、一人大忙しで気持ちと戦っているとあっという間に上についてしまった。この時間を永遠になんて思ってしまってすみません。
上では、他の皆さまが心なしかにやけているようにみえるが、そこは大人の対応で目をそらしてくれていた。
「本当にありがとうございます(心の声:いい時間をいただいて)。」といいつつ、洞窟の中へ。
外は、真昼間で日差しが燦燦と照り付ける日だったが、洞窟の中はひんやりとしていて肌寒いくらいだった。