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「勇者さまご一行、こちらでーす。」添乗員はじめました。異世界で。  作者: 爽村 愛
平和の森からシーズナルブラン村へ
17/82

滝に流すものは

 「この剣は、沢山の命を斬ってきた。」

「焼き尽くしたり、叩き潰したり。」

「時には毒の矢じりで。」

「我々にとっても、この武器にとっても、それは宿命さけられないことだったけれど。」

「色々な悲しみもつきまとうものだったの。」


 それぞれに、重みのある言葉を告げられる。


「だから浄めの水力持つこの滝にくる必要があった。この滝で武器に水をかけると、武器により失われた命は、浄化されて再生すると言われている。」

「そして、かざした今、言われが真実だとわかったよ。この森に生き物の息吹を感じたんだ。」

 さすが、レンジャー・クレイさま森を感じる力が違う。

 はじめて街で出会ったとき、退屈を憂うあの重い空気の裏には、もっともっと思うものがあったに違いない。


 添乗員としては、皆さんが話したいと思ったときや静かにしたいとき思い思いに過ごせるよう、滝の近くに私はピクニックエリアを準備する。

 大きなタータンチェックの柄の入ったクロスを平坦な場所に広げ、周りを石で固定する。

 真ん中にはピクニックバスケット。程よい大きさに切ったバケットと、きいちご、ブルーベリーのジャム以外にもハム、チーズを小さく切ってすぐ乗せられるように並べておく。紅茶は注いですぐ飲めるよう、ミルクで煮出して保温水筒(魔力で保温の優れもの)に積めてある。


 少し腰掛けられるように小さめの岩をゴロゴロと転がしていると、ふと軽くなった。セオロナさまが、隣で押してくれている。


「静かな気配り本当に感謝している。」

 添乗員として、影に隠れることをモットーにして、密かな努力を認める優しい一言に、思わず涙ぐみそうになる。使用人を多くかかえる公爵さまとしては、当たり前の心配りかもしれないけど。顔を見ると泣いてしまいそうで、横を向けず、岩をじっち見つめて作業を続けるしかなかった。


 添乗員になりたての頃の記憶がわく。添乗員業務ではよくある配りもの。

 希望者だけ、全員、必要なものを必要な人に渡す。

 それだけのことも上手くできず、近所のお化粧品屋さんで毎日サンプル配りをしている人を観察したりした。


 そして、欲しい人が、欲しそうな顔をするのではなく、さりげなさを装って受け取る。そこに上手に渡したいものを添える。という当たり前のことに気づいて少し成長した。とか。


 そんな些細なことを認められた気がした。

 ここは、異世界しかも相手は勇者さまで公爵さま、本気で好きになってはいけないという声を突き破りそうになる。


 

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