出発前のちっちゃい悩み
ダンスショーともいえてしまうパフォーマンスを見せた勇者さまご一行は大きな歓声に見送られ、公園を出る。
添乗員として、お供しますと言ったものの、おかみさんに話したり、用意をしたりしないと。
おかみさんにお世話になった費用とここ数日の労働、精算してマイナスになったら借りられるのかな。
などと、宿への帰り道は添乗員であったことも忘れて頭のなかぐるぐるだった。
「行くの不安?魔物はもういないし平和な旅だよ。」
勇者さまが、不安げな私に声をかけてくれる。
「あの~。私って非常に堅実に生きてきていて、ここまで全くお金を借りるなんてしたことはないんですが。。。
添乗員ぜひさせていただきたい。けど、おかみさんへの精算が。服もいくつか譲っていただかないと足りないですし。」
えーい、思いきって言っちゃえ。
「お役にもたってないのに聞きにくいんですが、添乗員ってお給料出るんでしょうか。さきにここでの支払い分何とかお借り出来ないですか。」
勇者さまは、きょとんとこちらを見つめてる。
きゃぴっーん。ど直球好みのそのお顔でこっちを見ないで~。お金貸してなんて言えなくなります。
「エリアル、路銀ってこの街でもう受け取ってるよね。」
「うん。昨日のうちに届いた。」
「よし、じゃあ何にも心配要らないな。」
そしてこっちをまた見つめる。
「任せて。僕たちに。あ、でも条件付き、僕のこともセオロナの名で呼んで。」
「セオともあろうひとが、お金で女心を?」
「しかも、城ひとつとか、クローゼットいっぱいの宝石とかじゃない程度のお金で。」
外野からなにか聞こえたようだけど、セオロナ様と呼ぶだけで精算気にしなくていいなら呼ぶわ。添乗員の名にかけてー。
「はい。セオロナ様、勇者さまっていう響きも好きだったんですけどね。」
ひとまず帰って、おかみさんにまずは申し入れ。
「とっても役にたってくれたんだけど、確かに勇者さまが出立されたあとに家で従業員は雇う余裕もなかったし。
勇者さまご一行以上に安心してあんたを任せられる雇い手もないからね。王都につけばいくらでも働き口はあるしね。」
数日雇ってくれただけなのに泣きたくなるほど、やさしく送り出して貰えることになった。
「あの、しかも図々しいお願いですが、服をいくつか。」
と、言い出すと、セオロナさまが遮る。
「それは、大丈夫。」
「あと、明日は私たちの面倒はみなくていいので。ゆっくり準備を整えて。夜もおかみさんとこのまち一番の食堂で食べておいで。支払いはしておくから。」
うっ。添乗員のクセにこの甘やかされ具合って。でも、おかみさんのことを考えてくれた結果だと思って素直に受け入れた。