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さつこい! 麗編  作者: おじぃ
北海道での日常編
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ホワイトデーのプレゼント

 3月14日の昼休み、私はいつも通り読書をしていると、これまたいつも通りに私と同じ最後列の、窓際の席で長万部おしゃまんべくんとお喋りをしている音威子府くんが雄叫びを上げた。


 長万部くんと『おしゃ』べり…。なんちゃって。


「今日はホワイトデーだぁぁぁ!!」


 うん、今日はホワイトデーだね。音威子府くん、何かプレゼントくれるかな?


 あぁ、なんか私、図々しいな。バレンタインの手作りチョコを喜んで食べてくれただけで十分嬉しいのに。


「ねっぷにホワイトデーなんかカンケーないじゃん」


「F〇ck!」


 教壇前の席に座る二人の女子生徒、上幌かみほろ万希葉まきばさんと岩見沢いわみざわ静香しずかさんが音威子府くんを罵るのもいつものこと。なんでもない日常の、なんでもない幸せ。変わった事といえば、それから音威子府くんと二人の女子生徒が口喧嘩をしたくらい。


 それと、音威子府くんが昨年の夏休みの合宿で露天風呂を覗いていたと女子生徒の一人が言っていた。もしかして、私も覗かれちゃったのかな? イヤ、もしそうだったら恥ずかしい。


 そういえば音威子府くんの日課だったスカートめくり、近頃してないな。私はされたことないけど、やっぱり絡みづらいからかな? それとも魅力がないから? いずれにしてもなんかショック。前者は自分で撒いた種だから仕方ないけど、後者だったらどうしよう…。


 ◇◇◇


 放課後、今日は図書室などに寄らず、部室へ直行した。


「こんにちは」


「やぁ、こんにちは」


 部室では既に知内さんが紅茶の葉をポットに入れてティータイムの準備をしているところだった。今日は新聞の発行日の水曜日。水曜日は昼休みまでにプリントアウトした新聞を廊下や部室前に掲示し、放課後はどこかの学校の軽音部のごとく、のんびりとしたティータイムを過ごす事が多い。


「あの、知内さん、昨日はありがとうございます」


 昨日、電車の中で知内さんがかけてくれた言葉が嬉しくて、私はどうしてもお礼を言っておきたかった。


「ん? 何がだい?」


「その、電車の中で…」


「ああ! ()いのだよ。私こそ、麗ちゃんが甘えてくれて嬉しかったぞよ? 私たち新聞部の仲間には、家族のように遠慮なく接して欲しいと思うところでありまして、きっとねっぷくんや新史(あらし)、それにカップちゃんだって、それを望んでいるんじゃないかな」


 あぁ、嬉しいな。こんなこと言ってくれる人が私の傍に居るなんて…。札幌に引っ越して、この学校に入って、新聞部に入って本当に良かった。


 心が、とても温かい。


 雪まつりの時は、音威子府くんがとても温かい気持ちにしてくれた。知内さんにも、音威子府にも感謝しているけど、どこか感覚が違う。知内さんは心を焦がすような感覚で、音威子府くんは胸を締め付けられるというか…。なぜだろう? どっちもとても温かい気持ちになるのに、当然優劣なんか付けられないのに、あぁ、なんか混乱しちゃいそう。この感覚はなんなの?


「やぁ二人とも、こんにちは」


 その時、木古内さんが女子生徒に嵐を巻き起こしている罪な笑顔で部室へ入ってきた。きっと木古内さんは知内さんのことが好きなんだと思うけど、彼女のハートに嵐を巻き起こせないのは近くで見ていてとても気の毒。


「こんにちは」


「おうおう新史のアンチャン! アタシらになんか出すもんあるんじゃないかい?」


 すると、なぜか知内さんはチンピラのような口調で不敵な笑みを浮かべながら新史さんの胸倉に掴み掛かった。


「あ、あぁ、うん、もちろんあるよ」


 言って、新史さんは少しビクビクしながらカバンの中を手探りした。


「はい、こっちが知内さんの分で、こっちが留萌さんの分ね」


「おう! サンキュー!」


「ありがとうございます」


「いえいえ」


 私と知内さんは包装紙が破けないようにそっと剥がして、中身を確認した。


「おお! 小さなテディーベアだね」


 知内さんへのプレゼントは高さ15センチくらいの小さなテディーベアとチョコレートのセット。いいなぁ、可愛いなぁ。


 私のは何だろう?


「え?」


 な、なんなのこれ?


「ごめん、ちょっとした遊びゴコロ」


 私へのプレゼントは、チョコレートと一緒にヒグマの着ぐるみを被った『まりもっこり』。その名も『ひぐまりもっこり』。ある所が隆起(りゅうき)している北海道のご当地キャラクターで、にんまりした目付きがとてもいやらしい。


 けど、ちょっとかわいい…。


 音威子府くんはもっこりした部分がブルブル震えるぬいぐるみをカバンに付けている。


 ガラガラガラ!


「皆さんこんにちは~、新史クン、今日は何の日かなぁ~先生超楽しみ~♪」


 突如、滅多に部室に顔を見せない顧問の占冠しむかっぷらん先生が元気良く登場した。新史さんにチョコを貰いにきたみたい。


「あ、すみません」


「え?」


 木古内さんのまさかの陳謝に、占冠先生の満面の笑みが急に引き攣った。


「先生の分、忘れてしまいました」


「えーっ!? 女性への心配りバツグンでモテモテの新史クンが私の分を忘れた!? い、いや、わわわ、ひょっとして私って、女として見られてないーっ!? そんなぁ!?」


 う~ん、私も男の子だったら先生の分は忘れてたかも。バレンタインの時だってお父さんと木古内さんの分を忘れてたし。


 ちなみに、お父さんの分は家族でスーパーに買い物に行った時に思い出してバレンタイン当日に渡せた。木古内さんの分は用意するのを完全に忘れてしまったけど、彼は当日に風邪で休んだので、後日、さもちゃんと覚えてましたと言わんばかりにチョコを渡せたのだ。


 先生頑張って! きっと先生を愛してくれる男性はどこかに居る筈!


 陰ながら先生の幸せを祈る私であった。

 ホワイトデーのプレゼントなりそうな気がしてなりません。


 現在、神威編、麗編を時系列に沿って公開しております。


 次回は神威からのプレゼントのお話です!


 

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