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さつこい! 麗編  作者: おじぃ
北海道での日常編2
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これから始まるものがたり

 どうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどおし夜通し…。って、今日はそんなこと考えてる場合じゃないのに、なんなの私!?


 神威くんをベッドに投げて上幌さんお別れし、電車に乗って座った瞬間、爽快感と引き換えに羞恥心が込み上げてきて、発狂しそうになってしまった。


 食事はあまり喉を通らず、心配するお父さんとヒグマさん、見透かしたように微笑むお母さんをやり過ごし、今はいつもより短めの入浴を終えて自室のベッドに座っている。


 うぅ、言っちゃった。好きですって、言っちゃった…。


 言っちゃった言っちゃった言っちゃったー!!


「ぅああああああああああああっ!!」


 頭の中のモヤモヤと、胸が焼き切れそうな感覚に、思わず呻き声を上げ、ベッドの上でゴロンゴロン激しく転げ回る。


「どうした麗ああああああ!!」


「しっ! このお年頃は色々あるの! 放っておいてあげなさい!」


 階下から両親の声。やはりお母さんには見透かされているようだ。


 ◇◇◇


 翌日、神威くんは切れ痔になったという理由で学校を休んだ。あぁ、きのう私が長い距離を引き摺ったせいだ。


 お昼休みに神威くんから上幌さんと同時送信でメールが入り、放課後、俺の家に来て欲しいとのことだったので、ただいま上幌さんと一緒に神威くんの部屋に来ている。


 ここに来るまでの間、上幌さんと、緊張するね、などとぎこちない会話をしていた。


 私と上幌さんはテーブルの前に並んで座らされ、神威くんは麦茶を用意して正面に正座した。


「あのー、なんつーか、今日はわざわざ来てくれてありがとう!」


「もう、まさか学校休むなんて思わなかったわよ」


 頬を膨らませる上幌さんは、女の私から見てもちょっと可愛い。


「ごめんなさい、私が乱暴に引き摺ったから…」


 距離が長かったから、前回すぐそこから引き摺った時より重症になっちゃったんだね。 


「いやいや、俺が頼んだんだから麗ちゃんは悪くないぜ。でさ、引き延ばしてもしゃあないから結論を云うぜ?」


 私と上幌さんは緊張が頂点に達してゴクリと唾を飲んだ。


 失いたくないよぉ、一緒に居たいよぉ…。


「俺は…」


 俺は!?


「俺は、俺は、二人とも、二人とも好きです!」


 私と上幌さんはうんうんと頷き、続きを促す。


「だから、もうアレだ」


 アレって、どうなの!? どうするの!?







「二人とも、付き合って下さい!!」







 神威くんは、これでもかと言わんばかりに深く土下座して、額を膝に着けた。


「「………」」


 あぁ、なんというか、神威くんだ。でも私、上幌さんに追い付けた!


「あのー、ねっぷ? それは、二股ってこと…?」


「まぁ、捉え方次第ではな。いわゆる一夫多妻だ。ある日は万希葉と、ある日は麗ちゃんと、ある日は三人で…」


「はぁ…」


 煮え切らない空気の中、呆れ顔になる上幌さん。


 一方、神威くんの返事を聞いた私はすぐ自分がどうしたいか決めた。だから、迷いはなかった。


「わっ、私はそれでもっ、それでもいいです…」


「えっ!?」


 私の申し出に驚いたのか、上幌さんから思わず声が出た。


 だって、私も上幌さんも神威くんと一緒に居られるなら、これ以上の幸せはない。結婚とか先のことはまだ考えなくて良い年頃だもの。だから今は、そういうカタチのお付き合いもアリなのではと、私は思うのだ。






 ただ、最終的にくっ付くためには、ひとつになる時にゴム先をチョキリと…。






 って、何考えてるの!? なんなの私!?


「うおっ、うおっ…」


 神威くんは嗚咽を漏らし、涙腺には僅かながら雫が滴り始めていた。


「ありがとう!! ありがと麗ちゃん!! あーりがとおおおおおおっ!!」


 神威くんは心底嬉しそうに両手を差し出して、私の両手を握り、上下にブンブンさせた。ううううう、頭がクラクラするぅ…。それと、『ありがと麗ちゃん』って、何かのネタかな?


「あっ、はい…」


 少し落ち着いてきたところで、神威くんは上幌さんの様子を窺う。


「はぁ、負けたわよ。私、堂々と二股なんかされたら嫉妬でどうにかなっちゃいそうだもの。麗、このバカ、どうにかしてやってね?」


「えっ!? あっ…」


「そうか。ごめんな万希葉。俺、万希葉が初恋の相手でさ、バカだから他の女子より過剰なイタズラで愛情表現するしか出来なくて…」


 神威くんは照れて頭をポリポリし、にやけながら初恋を打ち明けた。


「うん。知ってる」


 言うと、切なげに笑う上幌さんは紅い頬を更に紅く染めた。


「私もねっぷが好きだし、ねっぷのキモチも気付いてたから、体育倉庫とか、人目のない場所でイタズラされた時は、イヤだとか言いながらも、割と大人しくしてたでしょ?」


 あわわ、二人の過去に一体何が!?


「おぉ、あれはそういう意味だったのか」


「気付けバカ」


「すんません…」


「だからせめて、これくらいはさせて?」


 言いながら、上幌さんは神威くんの横へ這い寄った。


 チュッ!


 !?


 上幌さんは神威くんの唇を奪った。それはあまりにも突然で、私は何を思うでもなくただ見ているしか出来なかった。


「ふふっ! じゃあ二人とも、幸せにね!」


 上幌さんは鞄を持って、そそくさと部屋を出て行った。笑顔の彼女はきっとこの後、泣き崩れるのだろう。そう思うと、胸が毒に冒されるように痛む。


 静かな部屋に響くのは、お部屋を散歩するごきぶりんちゃんの足音だけ。


「麗ちゃん」


「はい!?」


 私は我に返り、真っ直ぐ神威くんを見た。


「これから、よろしくな!」


 神威くんは無垢な笑顔を見せ、改めて右手を差し出した。


 私は照れ笑いして目を逸らそうと右下を向こうとした顔を、勇気を出して神威くんの方へと戻し、同じく右手を差し出した。


「うん! こちらこそ、よろしくね!」


 二人は照れ笑いのままガッチリ握手を交わし、幸せな未来を想像した。


 私たちの物語は、ようやく始まりを迎えたのだ。


 打ち切りじゃないよ? 本当にこれから始まるんだよ?


 そうそう、その夜、神威くんは奇声を上げながら裸で街を駆け回っているところを巡回中の警察官に見付かり補導され、一週間の停学処分となった。


 うん、退学にならなくて良かったね!


 ~『さつこいNEXT!』に続く~


 ご覧いただき本当にありがとうございます!


 この物語では麗の成長を描く意味もありましたので、神威らしさと麗の思い切りが噛み合って今回の結論に至りました。


 今回で『麗編』としては完結となりますが、次回から『さつこいNEXT!』として麗や神威の物語の続きや、他のキャラクターの恋模様も描いて参ります。近日公開予定ですので、引き続きご愛読いただければ幸いです。


 今後とも宜しくお願いいたします!

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