キモチは誰に向いているのだろうか
月曜日、今日は確認しておかなければならないことがある。
一昨日、なんでルッツーがねっぷの住むマンションから出てきたのか、気になって夜も眠れなかった。だからって日曜日にわざわざ呼び出すのは気が引けたので、我慢した。
昼休み、早々にランチを済ませた私は一緒に居た静香に、ちょっと用事があるから出て行くと告げ、隣のクラスのルッツーを人通りの少ない化学室前の廊下に連れ出した。
「わざわざこんなトコまで来てどしたのー? なんか大事なハナシ~?」
「うん、ちょっと訊きたいことがあるの」
「なになにー?」
ルッツーの能天気さに私は調子が狂いそうだけど、乱されないように呼吸を整えた。
「土曜日、ねっぷの家に行ってた?」
「うん。てゆーか、金曜日からお泊まりしてた」
「お泊まり!?」
なにそれなにそれ!? お泊まりってことはつまり、一線を越えちゃったの!?
「マッキー声デカイゾ☆」
「あぁごめん。あの、さ、もしかしてルッツーとねっぷて、そういう関係?」
油断してた。麗はもしかしたらねっぷが好きなんじゃないかと思ってたけど、ルッツーは想定外だ。でも、よく考えてみればルッツーとねっぷは相性いいかも。思考回路的に。
「そういう関係だったら、なにかな?」
ルッツーは上目遣いで、一見無邪気そうに私を見た。
「ルッツーは、私の気持ち、気付いてるよね?」
「マッキーのキモチ? ねっぷくんが好きってキモチ?」
「なっ!? そ、そんなにハッキリ言わなくたって…」
「はははっ、知ってるよ~、マッキーのキモチ、ずっと前から。じゃあね、結論から言えば、私とねっぷくんはそういう関係じゃない。お泊まりしたからって、セックスしてない。疑うならねっぷくんに直接訊けばいいさ~」
「へ、へぇ、そうなんだ…」
たぶん、ルッツーは嘘ついてない。だけど、とても安心できない。
「うん、そうだよ。でも、だからって、私がねっぷくんと何かしちゃいけない理由って、ある?」
「えっ?」
ルッツー、なに言ってるの…?
「だって、ねっぷくんはマッキーとも、他の誰かとも付き合ってるわけじゃないでしょ? なら、私がねっぷくんとお泊まりして、誘惑して、一線を越えたところで、何か問題でもあるかな?」
「そ、それは…。でっ、でも、ルッツーは私の気持ち、知ってるのに…」
「でもマッキーは、私のキモチを知らない。私は知ってて、マッキーは知らないだけの話。そうだね、私はセックスはしてないけど、ねっぷくんの横にハダカで寝たよ」
「はぁ!? なによそれ!? なんで!? なんなの!?」
ハダカで寝たって、それでねっぷが何もしてこない!? そんなのってあるの!?
ルッツーの言葉も、私自身も、何がなんだかわからない。
「それに、何よりも大事なのはねっぷくんのキモチ。誰のキモチがどうであろうと、パートナーを決めるのはねっぷくんなのさ」
「そ、それはそうだけど…」
「でね、私はねっぷくんにとって恋愛対象外なのさ」
ルッツーは笑顔でありながらも、ちょっと切なそう。
「どうして?」
「それは、勘でわかるのさ。でもね、私が対象外だって知って、ちょっと安心してるんだ」
「…それ以上は、言わないで。ごめんねルッツー、私、ルッツーの気持ち察せないで」
ルッツーの言おうとしていることが、勘でわかった。
「あははー、そりゃしょうがないさ~、だって、意識し始めたのはほんのちょっと前だもん。早くても修学旅行から戻った後。でも良かったよ~。親友のマッキーに隠し事しないで済んだんだから」
「隠し事?」
「だって、お泊まりしてもし一線を越えてたら、隠すしかないもん。親友に隠し事したままなんて、辛くて恋愛どころじゃないよ。だから今度はマッキーがガンバる番だよ。私は踏ん切りついたから、遠慮しないで思いっきり当たってこい!」
言わないでって言ったのに…。
「そんなこと言われたら、私だって…」
「だから恋愛相談しなかったのさ~。キモチが燃え始めてから間もないってのもあったけど」
ルッツーの気持ちは嬉しいけど、でも私は、麗の気持ちにも気付いてる。
「うん、ありがとう…」
「礼には及ばないよぉ。ねっぷくんにちょっかい出したのは事実だし。でも、ねっぷくんのキモチって、誰に向いてるんだろ…」
「さ、さぁ…」
きっと、ねっぷの気持ちはいま、麗に向いてる。けど、私は中学の時からずっと好きだった。だから負けたくない。きのうファミレスで麗に気持ちを確認したのは、一歩踏み出すためだもの。ここで素直になれなかったら私、一生後悔する。
だから…。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
今回の『麗編』はいつもより早い更新となりました。
次回から麗らかマッキーの麗らかじゃないバトル開始!?