焦燥にも似た…
神威くんとの恋はある意味スピード勝負。知内さんにはそう言われたけれど、それは恋とはいえない。仮に私が勇気を出して告白して、万が一付き合えたとしても、空虚さが残るのみでなく、上幌さんへの後ろめたさというか、歯痒い感覚が残るだろう。
スピード勝負を前提とすると、神威くんは下心で付き合うというのは明白。
でも、私は神威くんに心から好きになってほしい。上幌さんにしてもそれは同じだろう。
けれどそれは、神威くんにとっては『重い』のだろうか。高校生なのだから、自分と相性が良いのはどんなタイプか、付き合ってみて吟味される女子のサンプルの一人であれば十分なのか、はたまたカラダを重ね合わせられれば良い程度なのか、そもそも私は神威くんが好きなのか、考えれば考えるほど深みにハマって気が付けば迷宮に立つ自分が居る。
学校が休みの土曜日、私は気分転換に札幌駅周辺を散策していた。地下街でお洋服を見たり、大型書店やアニメショップで本の薫りに癒された。
「麗ぁー!」
アニメショップを出て札幌駅へ向かってオフィス街の歩道を歩いていると、上幌さんと対面した。青いビニル袋を持っているけれど、もしかして私と同じお店に行ってたのかな?
でも、良かった、一人で出歩けるようになって。
ストーカー事件の後、上幌さんは恐怖心から暫く単独行動を控えていたそうだ。
「こんにちは」
「ハロー! ねぇねぇ、せっかくだからちょっとお茶しない?」
「うん」
私たちはいつものファミレスに移動し、ドリンクバーとバニラアイスを注文した。
「あのさ、唐突なんだけど、麗って好きなひと、居るんだよね?」
うぅ、本当に唐突だなぁ…。
「…うん」
「そっかぁ。私もね、好きなひと、居るんだけど、なかなか気持ちが伝わらなくて。私が素直にならないからいけないのは解ってるんだけどさ」
「私も、なんだか色々よく解らなくて…」
「ははは、そっかぁ」
私たちはしばらく談笑してからファミレスを出た。気が付けば18時を過ぎ、茜空になっていた。
駅に向かって歩いていると、神威くんの住むマンションが見える交差点に差し掛かった。上幌さんとはここでお別れ。
「えっ!?」
信号待ちをしていると、上幌さんが何かに驚いた。私は上幌さんの目線の先にある神威くんが住むマンションの昇降口を見た。
「あっ…」
神威くんと、留寿都さん? 二人が昇降口で何やら談笑している。
なんだろう、なんだか焦燥にも似た、暗い気持ちになってきた。
「上幌さん、大丈夫?」
「あ、うん、大丈夫…」
とは言っているものの、ショックを隠しきれていない。
ねぇ神威くん、留寿都さん、それって、どういうことですか…?
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次回は修羅場!?