秘密の告白
どうしようどうしようどうしよう!? 下着を見られたくないあまりに神威くんを気絶させただけじゃなくてお部屋の前に置き去りにしちゃった! しかも引き摺ったからジャージのお尻の部分が擦り切れて穴が開くという始末…。
あぁ、酷いことしちゃったなぁ。神威くんに謝らなきゃなぁ。
◇◇◇
お昼休み、自販機でペットボトルのミルクティーを買って教室に戻る途中の廊下で、神威くんが前を歩いている姿を捉えた。左手でお尻を押さえてとても痛そう…。
「あの、神威くん…」
人見知りの私は、胸に何か支える感覚を覚えながらも少し勇気を出して話し掛けた。ここで謝らなければタイミングを逃してしまいそうな気がしたから。
「おう! 麗ちゃん! どうした?」
話し掛けると、振り返った神威くんは爽やかな笑みで私を見た。
「あ、あの、きのうは、ごめんなさい…」
言えた。とりあえず、最低限は言えた。
「何が?」
「えっ!? あ、あの、お尻…」
きょとんとしている神威くんは、私がしたことを理解していないようだ。
「おお! やっぱ麗ちゃんが運んでくれたのか! あん時 急に頭が痛くなってブッ倒れちまって。気絶した俺をわざわざ運んでくれたんだよな! ありがとな!」
「あ、あの、それなんだけど…」
「あぁあぁケツか!? それなら気にしてないぜ! 確かにヒリヒリするけど、気絶して重量感が増した俺をわざわざ運んでくれたんだからな!」
「その、それについてちょっとお話があるから、
人気のない所に…」
私と神威くんは1階端にある化学室前へ移動した。
これを告白したらきっと嫌われてしまう。でも、神威くんは突然の病で気絶したと思って健康の心配しているだろうし、正直に言わないと彼に余計な荷物を背負わせてしまう。
私は胸に手を当て呼吸を整え、覚悟を決めた。
「あ、あの、ね? 実はね、神威くんを気絶させたの、私なんです…」
あぁ、言っちゃった…。
「ん?」
しかし、神威くんは私の言葉を噛み砕けていないようだ。
「あの時、神威くんが後ろから走ってきて私のスカートめくって、恥ずかしくて、つい護身術を…」
言いながら、私は俯く。
「護身術?」
神威くんは首を傾げている。
「うん。留萌家に伝わる護身術…」
嫌われた。こんな暴力女、ドン引きだよね…。
「うおおおおおお!! かっけー!! 俺にも! 俺にも教えてくんねぇか!?」
えっ!? ど、どうしよう、予想外の反応だ。
「えっ!? でも、大した術じゃないよ? ストーカーに はあまり効かなかったし…」
そう、ストーカー事件以降、私は護身術の自信を失いつつある。
「それでも! それでもすげぇよ!! 俺が保証する!! だから! だから俺にも教えてくれ!!」
何故か神威くんは興奮して自らの両手で私の両手を握りしめ、上下にブンブンした。
どうしてだろう。それがすごく、温かくて、ホッとする。
神威くんは、こんな私を嫌いにならなかった。それだけで、とても幸せだ。
「う、うん。わかりました…」
後日、私は部活の時間、神威くんに護身術の稽古を始めた。
秘密を告白したら、スッキリしただけじゃなくて、神威くんとの距離が一気に縮まったような気がした私であった。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
神威に秘密を打ち明け、完結の兆しが見えたようなそうでもないような。