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さつこい! 麗編  作者: おじぃ
北海道での日常編2
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小さな虫でも大切な命

 日曜日、大変な苦労して製作したストーカー対策用無線機が完成したので、性能や使用方法を説明するため、まだ茅ヶ崎から戻らない不入斗いりやまずさんを除く新聞部一同と、上幌さん、岩見沢さん、留寿都さんとで、ドッキリ企画の如く神威くんの部屋へ突然押し掛けた。


 神威くんのお母さんは歓迎してくれて、早速温かいお茶を出してくれたけれど、神威くんはトランクスの中に手を突っ込んでナニかを握りながら口を開けて爆睡していた。


 部屋にはエッチな本が踏み場もないくらい散らかっていて、クズカゴにはティシューがぎっしり詰まっていたけれど、特に誰も気に留める様子はなかった。


 修学旅行前に訪れた時は、エッチな本はベッドの下に数十冊重ねてある程度で、今回より少なかった。きっと部屋を片付けたばかりだったのだろう。


「ねぇねぇねっぷくん、あれなあに?」


 留寿都さんが洋服箪笥たんすの上に置いてある虫カゴを見て言った。下がクリアのプラスチックで、屋根に黄緑色の通気フタが付いてるタイプだ。


「あぁ、あれか? あの中にはカミキリムシの“かみきりん”が住んでるんだ! 玄関前の側溝を這ってたから捕まえた」


 説明すると、留寿都さんは見せて見せて〜! と言って、神威くんは虫カゴをテーブルの上に持って来てみんなに見せてくれたので、私も観察してみる。


「わ~ぁ、かみきりんカワイイね!」


 留寿都さんはかみきりんを見て目をキラキラ輝かせた。


 あれ? カミキリムシって、こんなに薄い羽だったっけ? 確かに楕円で触角は長いのだけれど、羽はカブトムシみたいに硬くて、身体の形はこの子より少し角張っていた気がする。


 私は虫は苦手ではないし、カミキリムシも平気だけれど、なんというか、この子にはなるべく触れないほうが良いとセッ、じゃなくてシックスセンスが告げている。


 留寿都さんは虫カゴをのフタを開けて、昆虫ゼリーを食べているかみきりんの長い触角をツンツンした。飛んで逃げたりしないだろうか。


「だろ!? 留寿都にはかみきりんの良さが解るんだな!」


「萌香でいいよ!」


 留寿都さんは神威くんをニコッと見て元気良く言った。


 うぅ、神威くんと留寿都さん、相性が良いのか、あっという間に打ち解けた。私も留寿都さんくらいあっけらかんとしていれば、もどかしい思いをせずに済むのだろうか。


「そうか! 萌香はなかなかイイセンスしてるぜ!」


「でしょでしょ!? そう思うでしょ!! 私のセンスを見抜くねっぷくんもセンシティブだよ!」


「がーははっ! そうだろそうだろ! 萌香は神威マニアゴールド認定だ! ゴールド認定者は俺のジャーナリズムを以って仕入れたあらゆる情報を知る権利があるぜ!」


 褒められて余程嬉しいのか、神威くんは感情のまま高笑いしている。


 神威マニアゴールド!? なになになんなのその称号!? 私も欲しい!


「エヘヘー、なんだか良くわかんないけどありがとー」


 留寿都さんは右手で後頭部をポリポリしながら喜んでいる。


 いいなぁ、神威マニアゴールド…。


「おう!」


「ねぇねっぷ」


 かみきりんを見た上幌さんが苦い表情で神威くんに話し掛けた。


「おうおう! 万希葉もかみきりんの良さが解ったか!」


 上幌さんは苦い表情のまま言う。






「これ、ゴキブリじゃない?」






 上幌さんの指摘に留寿都さんはポカンとしたけれど、私を含む他のみんなは、これは所謂『黒いG』、つまりゴキブリであると気付いていたようだし、私もそうではないかと思っていた。恐らくチャバネゴキブリのおすだ。


 北海道のような寒い地方でゴキブリを見掛けるのは珍しい。故に、道産子の上幌さんは、狼狽うろたえているものの、ゴキブリであると確信が持てないのか、知識が乏しいためキャーキャー騒がない。


 ゴキブリが良く出る地方の人には想像し難いかもしれないけれど、寒い地方の人はゴキブリを見ても、ゴキブリであると判らない人も居るのだ。


「うん、そうだねぇ。これはチャバネゴキブリという種類だよ」


 知内さんが冷静に言った。やっぱりそうだったか。


 チャバネゴキブリは日本で最もポピュラーなゴキブリで、家の中や学校にオフィス、路地裏等ありとあらゆる場所に分布している。


「そうか! じゃあ今日からお前は“ごきぶりん”だ!」


「えっ!? それだけ!?」


 何故か驚いて釈然としない様子の上幌さん。


「なんだ、名前変えたし、何か問題あるか?」


 ごきぶりんは留寿都さんにすっかり懐いて、彼女の手の上をノソノソ這っている。


「あははー、ごきぶりんカワイイ♪」


 あははー、と言う留寿都さんを見て、『ちびまる子ちゃん』の山田くんを思い出して噴いてしまいそうになったけれど、失礼な気がしたので堪えた。


「えっ!? ちょっと!? ゴキブリでしょ!? 殺さないの!?」


「なんだなんだ殺すなんて物騒だな〜。ごきぶりんが万希葉の大切な人とかモノに何かしたか?」


「いや、別にしてないけどさ、ゴキブリ出たらフツー殺さない?」


「万希葉ぁ、万希葉はいつからそんなに悪いヤツになったんだ? 見損なったぞ」


 う〜ん、確かに恨みもない無抵抗な相手に無意味な殺生は良くないね。殺すなら食べなくちゃ。


 ゴキブリだったら生のまま大きなお皿の上でピラミッド状に盛り合わせるよりは、フライにしたり、砂糖を入れて佃煮にしたほうが美味しいかな?


「えっ!? えっ!? なんでなんで!?」


「みんな、別にごきぶりんを殺そうとか思ってないよな」


 神威くんは全員を見回しながら問うた。


「あぁ、うちはゴキブリ出た事ないから殺虫剤ないし、出てって欲しかったら逃がせばいいんじゃね?」


 長万部くん、正論だね。私の家でもゴキブリは見ていない。寒い地方ではなかなか見掛ける虫ではないけれど、交通網が発達したため渡航して来たのだろうか。


「アタシも勇と同意見だな! ってか虫とか気にしねぇ」


 岩見沢さん、ワイルドだぜぇ…。


「僕は新聞紙に乗せて外に出す、かな?」


 木古内きこないさんは数々の女性を虜にした爽やかな笑顔。


「私も家で見た覚えないし、特に気にしないねぇ。それよりムフフなピクチャーやムービーでハァハァしてたほうが有意義な時間を過ごせるよ。麗姫はどうだい?」


 知内さん、以前から思っていたけれど、貴女は同性愛者なのですか? それともBLでもハァハァ出来るのですか? 私は百合でもBLでもなく、男女の愛し合う姿に刺激されます。


「私は、えーっと、虫は無視…。あっ…」


 しまった! 別の事を考えていて咄嗟に思い付いた事をそのまま口に出してしまった!


 うぅ、恥ずかしい、恥ずかし過ぎる! 穴の中に入りたい…。


 私は両手をピンと伸ばして太ももに押し付けた。周囲は唖然として、何とも言い難い空気が流れている。


「がーはっはっ! 麗ちゃんは何気に冴えてるからな!」


 しんとした空気の中、神威くんだけは大爆笑してくれた。


 うぅ、ありがとう神威くん。お世辞でも嬉しいです…。こんな私に気を遣ってくれる貴方が好きです…。


「萌香はごきぶりん殺したいのか?」


「え〜、こんなに可愛いのに殺すなんて出来ないよぉ」


「だよな! 万希葉よ、残酷な発想はもうやめるんだ。だが誰しも欠点はある。万希葉は今日、それを補うチャンスを与えられたんだ! これを機に、もっと命を大事にするよう心掛けるといいぜ!」


 そう。例え小さな虫でも大切な命。スズメバチのような害虫は危ないけれど、このゴキブリは細長いから雄だから産卵しないし、虫カゴの中で飼っている分には大丈夫だと思う。


 ちなみに、雌のチャバネゴキブリは丸みがあって雄よりやや小さい。


「えっ!? なにそれ!? これじゃまるで私が悪者じゃない!」


「だから万希葉が悪者にならないようにみんなが協力してくれたんだ! 良かったな!」


 うん、みんなお互いに人間力を高めていこう。


「えっ、えっ、えーっ!?」


 この間、ごきぶりんは留寿都さんの手を伝って虫カゴへ戻り、再び昆虫ゼリーを食べ始めていた。名前が変わっても元気そうで良かった。


 その後、神威くんのお部屋に集まった本来の目的である無線機の性能や使用方法について知内さんが説明し、終わると和気藹々とした空気の中おいとまして、解散となった。


 ご覧いただき本当にありがとうございます!


 更新が夜分遅くなりまして失礼いたしました。


 ちょっと東京の海辺にある逆三角形の建物へ買い物しに出掛けていたらこのザマです。

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