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さつこい! 麗編  作者: おじぃ
修学旅行編
50/69

思い出を胸に

 うぅ…。眠い…。


 昨夜は上幌さんと岩見沢さんにバレないよう、ベッドの上で布団を被って、私だけの世界で自分を慰めていたら殆ど眠れなかった…。


 いま、私たちは修学旅行最後の観光として、宿泊していたホテルの目の前にある日本一高いビル、横浜ランドマークタワーの69階、地上273メートルの高さにある展望台、『スカイガーデン』からの絶景を満喫している。人が砂のように見えて、あまりにも高いアングルのため地球の丸みを実感でき、少し目眩のような感覚を覚える。


 69階かぁ…。


 季節柄、空気は霞んでいて、富士山や東京タワー、東京スカイツリーなどは見えないけれど、丹沢たんざわの山影は辛うじて見える。こんなに高い建物には滅多に上がれないので、貴重な体験だ。高い建物の展望台に上がるのは、今回の修学旅行では東京タワーに続いて2回目。


 展望台へ上がるには、最高時速45キロメートルで運転されるエレベーターに乗って行くのだけれど、気圧の変化で耳が痛くなった上に、興奮した神威くんが奇声を上げ、狭いエレベーターの中は大仏の胎内より煩かった。すかさず岩見沢さんが急所を蹴ってくれたおかげで、エレベーターに響く声は奇声から呻き声に変わり、少し静かになった。


 なるほど、岩見沢は自分が静かになるのではなく、他の人を静かにする能力があるから『静香』という名前なのか。


「う、うほーい…。絶景だぜ…」


 岩見沢さんに攻撃された急所の痛みが続いているのか、元気のない神威くん。無理に『うほーい』なんて言わなくていいのに…。


「大丈夫?」


 自業自得とはいえ放っておくのも可哀相なので、声を掛けてみた。


「あ、ありがとう…。麗ちゃんは優しいな…」


「バイ…」


 いけないっ! 急所の元気がないみたいだから、『バイアグラでも飲む?』なんて言おうとしちゃった!


「ばい?」


 キョトンとしながら私を見る神威くん。


「札幌のTV塔の倍以上高いね」


 確かさっぽろテレビ塔の展望台は地上90.38メートル。私は上がった事はないけれど、それでも絶景だと思う。


 うぅ、話の逸らし方がなんだか苦しい。


「おう、そうだな! 海も見えるし山も見えるし絶景だぜ!」


 ふぅ、なんとか誤魔化せた。


 ランドマークを出ると各自でランチタイム。桜木町駅前に14時集合。飛行機の都合があるので、時間に遅れると置いて行かれて自費で帰らなければならないらしい。私は一般的な運賃の飛行機や寝台特急で帰るくらいのお金はあるけれど、神威くんは格安航空で帰るお金もないだろう。そうなったら仕方ないけど神威くんにお金を貸して格安航空で帰ろう。他のみんなの所持金は問題ないと思うけれど、長万部くんは陸路で帰ったほうがいいかも…。


 修学旅行最後のランチはお洒落な高級ハンバーガーのお店でいただく。分厚いハンバーグにトマトやレタスが挟んであるシンプルなものでも、ポテトとドリンクがセットで700円以上。神威くん、長万部くんと岩見沢さんはこれを選んだ。私はサーモンとアボカドとオニオンのサンドイッチで480円。上幌さんはローストビーフとブルーチーズのサンドイッチと、少々軽めのメニューだが、上幌さんの選んだメニューは680円とやや高め。


 集合時間にギリギリ間に合った私たちは、貸し切りバスで無事に羽田空港へ到着。搭乗手続きをして飛行機に乗り込んだ。神威くんが所持金のほぼ全てを使い果たしてお土産を買い込んだおかげで時間が掛かってしまった。


 中央列に座る長万部くんは恐怖により震えが止まらなかったので、隣の席になった岩見沢さんにお腹をドスッ! と殴ってもらって離陸前に気絶させられた。


 私は最後部の席で、隣は空席。前例の窓側は神威くん、その隣は上幌さんとなった。


 飛行機は滑走路に入ると一気に加速して離陸。暫く旋回して雲の上に到達した。神威くんが雄叫びを上げるかと思ったが、散々暴行を受けて懲りたのか、黙っていた。


「ねっぷ、いま何か失礼なこと考えてなかった?」


「別に万希葉を暴力怪物女だなんて思ってねぇよ」


 あぁ、そんな事考えてたんだ…。


 瞬間、ふと上幌さんの拳が神威くんの側頭部に近付いたが、寸止めされた。


「ちょっと何よそれ!? 私は暴力なんかしないし!」


「じゃあその拳はなんだ」


「あぁ、これはねっぷを殴ろうとしたんだけど、やったら思うツボだと思ってやめたの。ちなみにねっぷには特例で暴力OK」


「なんだと!? 俺をなんだと思ってんだ!?」


「オ〇ニーマシーン」


 うん、私もそう思う。『シコシコパーティー』なんて歌っていたくらいだから。


「公共の場でそういう事を言ってはいけません」


「チャーター便だからダイジョブで~す」


 うぅ、なんだか二人とも楽しそう。私も下ネタを言えば神威くんと盛り上がれるのかな?


「お客様、失礼いたします。お飲みものはいかがなさいますか?」


 今の会話、キャビンアテンダントさんに聞かれていたみたい。


「オレンジジュースプリーズ!」


「あ、アイスティーお願いします…」


 上幌さん、ちょっと恥ずかしがっているのが後ろからでも判る。


 今回の旅行では、神威くんや、他のみんなとの距離が縮められて、ちょっと前まで一人ぼっちだった私の視野がグッと広がった。まだ素直に笑顔は振り撒けないけれど、色んな思い出がギュッと詰まった5日間は、私にとってきらきら光る生涯の宝モノとなるだろう。


 掛け替えのない思い出を胸に、北海道へ帰ります。

 長らく続きました『修学旅行編』にお付き合いいただき本当にありがとうございます!


 次回からは北海道での日常に戻ります。万希葉に嫉妬している麗がどう出るかがポイントです。

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