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さつこい! 麗編  作者: おじぃ
北海道での日常編
5/69

そうじゃなかったのですか?

 バレンタインデーの朝、私はいつも通り5時30分に起床した。今日はゆっくり身支度を調えて出掛けられそう。


 歯を磨いて、パンを焼いて、髪を解かして…。


 手作りチョコをカバンに入れて♪♪


 あぁ、なんか緊張するなぁ。うふふ。あぁ、もう、なんなの私ぃ♪♪


 テレビを点けると、ちょうど6時前の占いコーナー。


「3位は乙女座のアナタ! 今日はバレンタイン! 男の子も女の子も全身にチョコを纏って出掛けよう! ワタシをた・べ・て! の一言で相手はイチコロ! ラッキーアイテムは、警察官をギャフンと言わせる大金! チョコを纏って出掛けて捕まった時も安心! カネのチカラで釈放してもらいましょう!」


 レディー・ガガならやりそうだけど、そんな格好、私には出来ないよぉ。


 いつも思うけど、この占い、ロクなこと言わない。


 ◇◇◇


 8時30分、チャイムが鳴り、教師一年目でクラス担任の大楽毛安夢(おたのしけやすむ)先生が前の扉から教室に入るとほぼ同時に、後ろの扉から、雪でも被ったのか頭を濡らした音威子府(おといねっぷ)くんが教室に駆け込んできた。


 良かった。音威子府くん、いつも通り25分に来なかったから今日はお休みかと思って心配しちゃった。


 ◇◇◇


「うら…、留萌さん! これ、昨日くれたおにぎりのお礼! 朝買ったやつだから冷めちゃったけど、よかったらどうぞ」


 うら? もしかして音威子府くん、私のことファーストネームで呼ぼうとした? だとしたら、ちょっと嬉しいかも…。


 お昼休みのチャイムが鳴ってすぐ、私の席に来た音威子府は、きのう彼にあげた手作りおにぎりのお礼にと、缶のミルクティーをくれた。


「あ、ありがとう」


 そんな、私が勝手にあげただけなんだから気を遣ってくれなくてもいいのにと思うと同時に、お母さんに言われたままにおにぎりをあげたのが恥ずかしくなってきた。


 うぅ、なんだか放課後にチョコを渡すのまで恥ずかしくなってきた。


「いやいや、こっちこそ、おにぎりめっちゃ美味かったです! 今日も雪まつりの新聞頑張ってつくろう!」


 あ、しまった!


「うん」


 新聞部には、最近風邪で休みがちな木古内新史(きこないあらし)さんという二年生の先輩が居る。音威子府くんで頭いっぱいになって彼のチョコを用意していなかった。


 あぁ、どうしようどうしよう!? 二人っきりになる時間なんかなさそうだし、チョコ渡せないかも!! 木古内さん、今日も休んでくれてると…。って、そういう事考えちゃだめ!


 でも困ったなぁ。本当にどうしよう…?


 ◇◇◇


 不安を抱えたまま放課後がやってきた。部活の時に音威子府くんにチョコを渡そうかと考えていたけれど、木古内さんの前で渡す訳にはいかない。


「こんにちはっ…」


 うぅ、緊張と罪悪感に駆られて声が引き攣ってしまった。


「おっす! 麗ちゃん」


「こんにちは、あの、木古内さんは…?」


 部室に居たのは知内さんだけ。音威子府くんもまだ来てないみたい。


新史(あらし)は今日も休みだよ~」


「そう、ですか…」


 木古内さんごめんなさい! 休んでくれてありがとうございます!


「麗ちゃん、はい! 友チョコとクッキー!」


 知内さんは(おもむ)ろにカバンを漁って、手作り黄色いリボンの掛かった透明の小袋に入った一口サイズのチョコレートとクッキーを私に差し出した。


 し、しまったぁぁぁ!! 友チョコなんて完全にアウト・オブ・眼中だった!! どうしよどうしよどうしよーっ!? あーもうなんなの私!? 女の子同士でチョコの交換なんて、今や常識なのに!! それすら忘れちゃうなんて!!


 あ、でも今なら音威子府くん居ないし、彼の分を知内さんに渡しても…。


 …しかたない、そうしよう。


「ありがとうございます」


 お礼を言ってからお菓子を受け取った私は、それを自分のカバンに入れて、代わりに音威子府くんのために用意したチョコを取り出そうとした。


「こんちはー!!」


 その時、音威子府くんが部室に来てしまった…。


 あぁ、どうしよう…。どっちかにだけ渡すなんて出来ないよ…。


「おーす! ねっぷ!」


「ういーっす! 今日は頑張って新聞仕上げちゃいますよ! ねっ、留萌さん」


「うん、そうだね」


 突然のフリに焦って、また淡泊な返事をしてしまった。


「そうかい、頑張れ!」


「知内さん、あの、私、チョコ…」


「ああ、いいのいいの! 私が勝手にあげただけだから!」


「すみません。後日、お返し持ってきます」


「いやいや、ホント、気にしないで!」


 顔の前で右手を振りながら笑顔を見せる知内さん。気にしないでと言われても、ちゃんとお返ししなきゃ。


「あ、ねっぷにもバレンタインあるよ。当然、義理だけどさ」


「マジっすか!?」


 私も知内さんくらい気が利いて気さくに振る舞えられれば、滞りなく音威子府にチョコを渡せたのに…。


「はい、バナナ」


 知内さんは両手で一本のバナナを握り、笑顔で音威子府くんに差し出した。


「バナナ、っすか…?」


「お好みで溶かしたチョコレートにディップして召し上がれ~」


 私と音威子府くんを交互に見ながら笑みを浮かべる知内さん。


 まさか…。


「おっといけない! 私きょう用事があったんだ! 後は二人仲良くね~。ばいば~い」


 そう言って知内さんはそそくさと部室を出た。


 それから私と音威子府くんは雪まつりの新聞を仕上げた。


「うっしゃー新聞できたー!!」


 出来上がった新聞は、私お気に入りの水族館の動物たちを象った大きな雪像の写真を見出しに使用し、雪まつりの会場で配布されていた読売新聞の号外と似通った仕上がりとなってしまった。


 まぁ記事の内容はオリジナルだし…。うん、お気に入りの写真が新聞記者と被っただけだよね。


「いや~、動物は可愛いな!」


 新聞を眺めながら音威子府くんがご機嫌良くに話し掛けてくれた。


「うん、そうだね」


 うん、そうだねじゃない! いい加減にしろ私! なんなの!? 私ってなんなの!? そうだ、せっかく二人きりなんだし、というか知内さんが気を利かせて二人きりにしてくれたんだから、チョコ渡そう!


 この時の私はヤケになっていたんだと思う。


「あの…」


「ん?」


 私は少し興奮しながら、カバンの中にある手作りチョコを取り出した。せっかく深夜まで時間かけて作ったんだもん。


「チョコです…。バレンタインの…。改めて…」


 私、変わらなきゃ。音威子府くんが、雪まつりで私に変わるきっかけをくれたんだ。だから、そのお礼…。


 って、あれ? いま私、お礼って…。


 もしかして、今までの胸の高鳴りって、感謝の気持ち…? 感謝の気持ちでいっぱいになって胸が高鳴ってたの?


 そういえば私、音威子府くんのどこが好きなんだろう?


 もしかして、雪まつりからの胸の高鳴りは、そうじゃなかったのですか…?


「うおおおおおお!! ありがとう!! ありがとうございます!!」


 たとえ恋じゃなかったとしても、喜んでくれるのは嬉しいな。


「ねぇねぇ食べていい!?」


「どうぞ」


 星型のミルク、ウサギさんのホワイト、ハートのピンクの中から、音威子府はハートのピンクをパクッと一口。


「おいっ、Cーぃ!!」


 ひょっとしたら私って、喜ぶ顔を見るのが好きなのかも。雪まつりの会場でチョコバナナをあげた時だって、音威子府くんの喜ぶ顔を見れたのがとても嬉しかった。


 恋じゃなくても、まぁいいか!

 意中の相手にチョコを渡して逆に気持ちが冷めてしまった麗。今後どうなるのでしょうか。生温かく見守っていただければ幸いです。

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