公表できないナニか
長谷駅で江ノ電を降り、長谷寺と、有名な鎌倉の大仏さまを見学した。大仏さまの中は空洞で、神威くんが『うほーいっ!』って奇声を上げたら、しつこいくらいにこだまして、凄く煩かった。耐え兼ねた上幌さんは神威くんの側頭部を殴り、岩見沢さんはお腹を蹴って、次に局所を蹴ろうとしたところで彼は一人でそそくさと脱出した。
それから再び江ノ電に乗り、終点の鎌倉駅から商店街の小町通りを歩き、鶴岡八幡宮を目指している。
小町通りは一般的な商店街というよりは、観光客向けの土産物を扱うお店が多く、漬け物、お煎餅、ソフトクリーム、はちみつ入りドリンクといった食品類を売るお店や、庭付きの高級なお蕎麦屋さん、ぬいぐるみやキーホルダー、陶磁器などの骨董品を扱う店など多岐に亘る。
そこで、神威くんは香ばしい匂いの誘惑に負けて醤油がたっぷり塗られた海苔付き煎餅を買った。お店の網で焼いたばかりのものを手渡されるから温かく、バリバリとした食感が愉しめる。私や他のみんなも釣られて同じお煎餅を買った。
小町通りを15分くらい掛けて抜け、鶴岡八幡宮に到着。高さ10メートルくらいはありそうな威風堂々とした鳥居の前はスクランブル交差点。なんとなく長野県の善光寺前を彷彿させる。
敷地はとても広く、お宮のみでなく、飲食店や雑木林のような場所まである。私たちはお賽銭を奉納し、願掛けをした。
どうか、恋が実りますように。
みんなで願い事をしている時に、神威くんが物凄い音で鈴を鳴らした。よほど叶えたい願いがあるのだろう。
願掛けを終えると、次は雑木林のような場所にあるベンチで一休み。そこにはタイワンリスがいっぱい居て、私たちのすぐ目の前まで近寄って来る。なんとなくリスさんの顔の前に人差し指を近付けたら小さな手でギュッと握られ、ペロペロしてくれた。
あぁ、なんて可愛いのだろう。とてもほわほわした気持ちになる。
「いいな麗~、リスちゃんに好かれてるね~」
左隣に座る上幌さんが言った。
「そうなのかなぁ」
「さすが麗ちゃん! 優しさが滲み出てるからな!」
「えっ、そんな事、ないよ」
うぅ、嬉しいけれど、誰にでもそういう事言うよね。本当は神威くんみたいなスタイルが人間として最良とは解っているけれど、それでも特別扱いされたいという気持ちはある。
でも、そもそも恋人同士ではないのだから、それは仕方ない。
「そういえばねっぷ、賽銭箱に封筒入れてたわよね」
上幌さんが問うた。
「あぁ、あれか。中身は千円札とエロ本のスクラップだ。神様が喜ぶと思ってな!」
これは迷惑行為ではなかろうか。
「ちょっと! 神聖な場所で何してんのよ!?」
相変わらずお母さんのように神威くんを注意する上幌さんは、面倒見が良いお姉さんタイプだ。
「神様だって目の保養は必要だろ!?」
言っている間、神威くんの肩にリスさんが乗っかった。
「あっ! ねっぷズルイ! 私もリスちゃん乗せたい!」
上幌さんはツンツンした態度を一変させ、無邪気な笑顔で神威くんとリスさんを見る。
「ハッハッハッ! 俺の神聖なオーラに惹かれて来やがったな!」
神威くんは私と同様、リスさんに指を差し出す。
ガジッ!
「いーてええええええ!! 何すんだこの野郎!!」
リスさんは神威くんの指に噛み付いて離れない! 神威くんは振り払おうと手を振ったりリスさんにデコピンをして必死に抵抗するが、ビクともしない。
「ははははっ! なにこれ超ウケる! ってかリスちゃん虐めないで。可哀相」
なるほど、リスさんも神威くんにはお仕置きしなきゃと思っているみたい。
鶴岡八幡宮を出て、小町通りを戻り、鎌倉駅で磐城さんやアロハさん、オハナさんとお別れした。
また、会えるといいな。
鎌倉駅からはJRの『エアポート成田』という成田空港へ向かう電車に乗って、大船駅で降りた。大船では東海道線で茅ヶ崎へ戻る不入斗さんと暫しのお別れ。私たちは駅ナカで、お芋を丸ごと一本使ったと思われるくらい大きなスイートポテトを買って根岸線に乗り、桜木町のホテルへ戻った。
明日は日本一高いビル、ランドマークタワーの絶景を眺望し、いよいよ北海道へ帰る。
そして今夜、私は神威くんのオカズにされてしまうのだろうか。
そう考えると、今夜はとても眠れそうにない。
上幌さんと岩見沢さんにバレないよう、布団の中に潜ろう。
ナニをバレないようになんて、とても公表出来ないけれど…。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
大船駅の『松蔵ポテト』は、おやつというよりはご飯という感じの大きくて甘い、ちょっとリッチなスイートポテトです。私が最後に食べたのは2010年の11月23日で、ご無沙汰ですが、また食べたいです。