ソルティーシャーベット
食後、アロハさんが冷凍室を勝手に開けても良いと言ってくれたので、私は一人でキッチンへ向かった。
このお家、家族用のリビングと、接待用の広いリビングがあって、接待用は家族用のリビングを隔ててある。
そろそろ冷え固まる頃であろうヨーグルトシャーベットを取り出し、ガスコンロの横にある調理台に載せた。
さて、ちゃんと固まってますかな?
試食のため、私はカレーライスを食べる時に使うような中型のスプーンを使ってシャーベットを掬おうとした。
ザグッ!
ザグッ!? まるで氷塊を突き当たったような感触だ。中にスプーンが入って行かない。
えっ!? 何これどうしよう!? 味以前に掬えなかったら食べらんなくない!?
だけど、根気良くザグザグしまくると、ようやく一口分掬えた。
食感はシャーベットというよりは氷菓で、ヨーグルトの味もちゃんとするけど、若干塩辛い。
これをみんなに食べさせたら、どんな顔するだろう? 勇なんか露骨に嫌な顔したりしないかな? ねっぷは『ドンマイ!』とか言いそうだけど、それはそれで悔しい。
「おいおいどうした〜。なかなか戻って来ないからみんな心配してるぞ」
「ねっぷ!?」
いつからキッチンに居たの!?
突然背後から声を掛けられてビックリしたのと、失敗作を見られて焦りが生じた。
「おう、なんだ、アイス固まってんじゃねぇか。一口くれるか?」
「えっ!? いや、ちょっと…」
どうしよう、失敗作を要求された。断ると印象悪くなりそうだし…。
「どうぞ…」
うわー、恥ずかしい! ねっぷが食べた途端に塩分抜けないかな!?
私は仕方なく、近くにあったデザート用の小さなスプーンで掬って、恐る恐る差し出した。ねっぷの視線が胸元に行っているのはいつもの事だけど、ちょっと恥ずかしい。
ねっぷは躊躇いなく、失敗作を口に運び、シャキシャキと音を発てた。
「おっ、これアレだ! 流行りの塩風味だ! さすが万希葉! 流行に敏感だな!」
あれ? もしかして都合良く解釈してくれたの? ならここは帳尻合わせようか。
「そう! さすがねっぷ! やっぱ神様は違うわね!」
この調子で煽てて誤魔化せれば!
「がーはっはっ! そうだろそうだろそうだろ! 全知全能の神の舌に狂いはないぜ!」
あ~、失敗したの気付かれてたか。『そうだろ!』が普段より一回多いのは、大体気を遣って大袈裟な表現をしてくれてる時だ。
「ふふっ、そうだね!」
「…そうさ! 北大路魯山人もビックリさ!」
私が笑うと、ねっぷは一拍間を置いて調子に乗り出した。何を言うか考えていたのだろう。
「エロいくせに北大路魯山人なんてよく知ってるわね」
北大路魯山人は生前、芸術家や美食家など、マルチな分野で名を馳せていた京都出身の男性だ。彼の遺した『美味いは甘い』という言葉は有名である。
「おいおいおい! エロいのと博学なのは関係ないぞ! それに俺は昔ほどエロくないぞ!」
「スプーン差し出した時、胸覗いてたじゃん」
くっ! バレてたか! みたいな顔してるけど、露骨にチラ見してたからバレバレだっての!
「そうさ! 俺はエロいさ! なんだったら今ハメてやろうか!?」
「ちょっ!? 開き直ったと思ったらどうしようもない事言い出して!」
「相手を傷付けない事なら思った事を素直に言う。それが俺の生き方さ!」
コイツ、相手を傷付けないようにとか言ったけど、たった今、私をキズモノにしようとしたわよね!?
「あ〜はいはい、そうでちたね〜」
ねっぷが調子に乗ると、つい赤ちゃん言葉を発してしまう。
それからキッチンを出て、みんなにシャーベットを食べてもらったんだけど、ねっぷが事前にソルティーシャーベットと説明したから、違和感なく美味しそうに食べてくれた。
こういう気配りが無理なく自然に出来るのは、ねっぷの才能だと思う。ハリボテの優しさを纏い外見を気にして、鏡を見ながら髪を整えてドヤ顔してるキモい男子とは雲泥の差だ。あれ、男子トイレでやれば女子にバレないとでも思ってんの? ガールズネットなめんなよ。
はぁ…。
それはそうと、やっぱ私、ねっぷが好きだ。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
万希葉の思考回路はリア充系女子に近付けていますので、該当者には結構キツイ表現があったりします。中学生の頃、部活の後輩が女子だけだった頃がありまして、会話を聞いてると凄いです。容赦ありませんでした。




