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さつこい! 麗編  作者: おじぃ
修学旅行編
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おかず

 キッチンで料理を始める準備をしていたところ、どういう訳か不入斗さんが目に涙を浮かべていたので、どうしたの? と声を掛けた。


「麗しぇんぷぁ〜い、私、料理、苦手なんですぅ〜。勇せんぱいにはA括弧かっこCで見栄張っちゃったんですけど、どうじまじょ〜」


 あわわわわ! 不入斗さんが床に膝を着いて私のお腹に泣きすがってきた。他のみんなが何事かと視線を寄せ、大丈夫? などと声を掛けてきた。


「だひじょぶでずぅ〜。IZAMぜんばいのだべぎがんばぎまずぅ〜」


 うんうんなるほど、好きな人の前では良い所見せたいもんね。ってあれ? IZAMって何処かで聞き覚えのある名前だけど…。まぁいいか。私やこの話の流れには無関係だ。ご存知とは思うけれど、長万部くんの名前はIZAMではなくいさむ


「なら、一緒に卵焼き作ろう? まず私がお手本見せるから、真似してやってみて?」


 あわわわわ、お手本見せるとか言ってしまったけれど、私、誰かに見られながら何かすると緊張して上手くいかなくなる傾向が…。


「あぎがどぉごだいまでゅ〜」


 不入斗さんは嗚咽おえつ呂律ろれつが上手く回らないようだ。


「一緒に頑張ろう」


 こういう時、私はいつもフラットな口調になってしまう。『一緒に頑張ろう!』と語尾を上げて発音したいものだ。


 私も気合いを入れて卵焼き作りに臨み、ビクビクしながらの調理になったけれど、なんとか上手く出来た。出汁巻き卵も作れるけれど、今回はあま〜い恋心をイメージして砂糖を加えたタイプにした。中はトロッと半熟。この加減がなかなか難しい。


 あぁ、これを神威くんが食べたら…。


『麗ちゃんの卵焼き、中がトロッとしてて美味かったぜ。卵焼きも美味かったけど、作った麗ちゃんはどんな味がするのか気になるな』


 なぁ〜んて言われちゃったりしてー!?


 きゃー! どうしよどうしよどうしよう!?


 ってあれ? 私ってなんだかんだ、神威くんが好きなんだ。出来立てのうちに早く食べてもらいたいなぁ、純粋に。


 気持ちを再認識して、彼が卵焼きを食べて喜んでくれる姿を想像すると、胸がホッと温かくなって、優しい気持ちになった。


 一方、岩見沢さんは厚切りハムに少し焦げ目を付けて美味しそうに焼き上げた。


 上幌さんは少し肩を張って真剣な表情でボールの中にヨーグルトと生クリームを入れ、食塩を少々加えて泡立て器で掻き混ぜている。泡立て器が電動じゃないところがニクイ。きっとデザートのシャーベットを作っているのだろう。傍らにはストロベリーやブルーベリーの瓶入りジャムが置いてある。


 アロハさんはお皿に紫色のオニオンスライスとサニーレタスを敷き、その上に大きいトマトをまるごと一個使って十字の切れ目を入れ、中に3センチ四方に切った中にモッツァレラチーズを載せたサラダを作っていた。


 オハナさんは予め炊飯して15分程度保温したお米を盛った丼に水菜を円周状に敷き、中心に大葉を置いて、その上に広視さんが買った高級シラスを載せた湘南名物のシラス丼を作っている。お好みで擦りおろし生姜やポン酢を掛けても美味しいらしい。


「じゃあ、不入斗さんもやってみよう」


「はい!」


 私の指導の下、不入斗さんは覚束ない手つきで卵焼きを作ったのだが…。


「うわーん! 焦げちゃいましたぁ…」


 真っ黒に焦げた卵焼きが出来た。中は辛うじて黄色い。上幌さんのシャーベット作りに気を取られて監視を怠った私は重責を感じています…。


「ごめんなさい。私、目を逸らしてたかも。でも大丈夫。中身は黄色いよ」


 うぅ、本当にごめんなさい…。


「麗せんぱいが謝る必要はありません。確かに中身は黄色いので焦げた部分はなるべく削ぎ落としてみます!」


 言って、不入斗さんはナイフを借りて真っ黒に焦げた部分を削ぎ落とし始めた。


「よーし、みんな大体出来たみたいだねー。男衆呼んで来るかー」


 アロハさんが周囲の様子を見て言った。


「私、呼んで来ます」


「ありがとう。庭に沿った廊下を道なりに行くと男衆が遊んでる音響スタジオがあるから、お願いねー」


「はい」


 私はアロハさんの案内通りに廊下を進み、音響スタジオの前に着いた。防音扉のため外に音が漏れない仕組みになっているので中の様子は判らない。


 厚くて重たい扉を開けた瞬間、頭が痛くなりそうなギターとベースの爆音に襲われた。ちょうど神威くんが熱唱している。


「俺は毎日妄想しながら派手にザ×××ぶっ飛ばす! 麗に万希葉に水菜に萌香ー今日のオカズは誰にしよう!?」


 えっ!? なになになんなのこの歌!? 私もオカズ候補なの!?


「いいぞねっぷー!!」


 磐城さんが歓声を上げてステージを盛り上げているが、長万部くんは胡座あぐらをかきながら客席より20センチほど高いステージ上の神威くんを黙って見上げている。


 私はあまりにも卑猥な歌詞に気が動転し始めた。


「ありがとう広視さーん!!」


 あれ? 岩見沢さんがオカズの候補に入っていない。彼女も魅力的なんだけどなぁ。代わりなのか知らないけれど、留寿都るすつ萌香もえかさんが候補に入っている。


 曲はサビに入り、私は間もなく衝撃の事実を知る。


「シー××コパーティ、×ーコシ×パーティ、アイウォントゥーセー××!! シー×シ×パーティ、×ー×××パーティ今日のオカズはうららちゃーん!!」


 わわわわ私!? 私がオカズなの!? 卵焼きは用意してるよ!? えっ!? えっ!? 何かの聞き間違い!? どうしよどうしよどうしよう!? こんなの聞いちゃったら室内へ入るに入れない!! あわわわわわわー!! どうすればいいの!? 引き返すにも脚が動かない。思考回路がショートするってこういうことなの!?


 あ、そうだ、こういう時は『無』になろう。何も考えずに原点に戻ろう。


 私はその場で立ち止まったまま、煩悩汚れその他諸々を全て排除し、精神を無に帰した。


 どれくらい経過したか、ふと意識を戻すと神威くんが私の眼前で手を上下に振っていた。


「はっ! あ、ごめんなさい。ボッとしてました」


 いつの間にかカラオケを終えたようだ。


「おう! そうかそうか! メシ出来たから呼びに来てくれたのか?」


「うん。あの、その、今日のおかずは、卵焼きです…」


 でも、今宵のオカズは、私なの…?


 きゃああああ! 考えると恥ずかしくて顔が熱くなった。

 ご覧いただき本当にありがとうございます!


 更新遅れまして申し訳ございません。


 男のリアルを知った麗でした。

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