ねこだるま
「ねっぷ何処行ってたの?」
気配を消すように声もなく戻って来た神威くんに上幌さんが問うた。
「野グソ」
汚いなあ! トイレ行ってたの?
「警察呼ぼうか」
上幌さんが提案した。
うん、呼ぼう。この人は一度断罪したほうが良いと思う。パンツ一枚でマンションの廊下に出たのを近所の人や警官に見付かって補導されそうになったのを忘れたの?
「冗談だよ! 紳士たる俺がそんな事する訳ないだろ!」
えー…。他のみんなもじっとりした視線を神威くんに向けた。
「おいおいおいっ! みんななんだその視線は! メンタルテロか! 俺はテロリスト、じゃなくてモラリストだからガチで迷惑掛けるような事はしねぇぞ!」
「じゃあ何してたの?」
相変わらずじっとりした目で神威くんを見る上幌さん。
「魔法の粉を少々」
「ドラッグやってるんだ」
魔法の粉…。ドラッグだけじゃなくて『ねるねるねるね』という解釈も出来たのは私だけかな?
「ねっぷ、そんなに追い詰められてるなら何故俺に相談してくれなかった」
親友の長万部くんが切実に問い詰める。
「大丈夫だ! 決して怪しいブツではない!」
言って、神威くんは刹那に目を逸らした。何か考えてるみたい。
「この広場って猫がいっぱい居るよな!」
あ、話逸らした。
「はい! 広場だけじゃなくて江ノ島は猫ちゃんいっぱいです!」
元気いっぱいに答える不入斗さん。実はここに至るまでの間に何頭かのねこちゃんを見て、もぎゅもぎゅしたい衝動を抑えていた。
「ってことで、動物と意思疎通できる俺が、今から猫ちゃんたちを呼び寄せようと思いまーす! おーい、そこの可愛い子猫ちゃーん! こっちおいでー!」
こねこちゃんは確かに可愛いけど、神威くんが言うとなんか卑猥。
神威くんは近くに居た小さな三毛猫を手招きしながら、自らも相手を脅かさないように少しずつ距離を縮めていった。
「にゃー!」
「ごわあああん!」
「なー!」
ドラ、黒、白、まんまるに太ったブチ、こねこちゃんのみではなく、あちこちから様々な模様のねこちゃんが集まってきた。
可愛いなぁ。顔が綻びそう…。
「すげぇ、ガチでねっぷにニャンコ集まって来やがった」
「さすがねっぷせんぱい! 神ですね!」
「がははっ! そうだろそうだろ! ほらほら来い来いニャンコちゃ〜ん!」
神の力なのかどんなイカサマを使っているのか知らないけれど、神威くんは色んな意味で凄い人だ。
「うぎゃー!!」
「ニャウー!」
「わあん!!」
神威くんに飛び掛かったねこちゃんたちは狂ったように彼の身体を弄んでいる。
あぁ、魔法の粉って木天蓼粉かな。
ドスドスドスッ!!
そして神威くんの身体へ一斉にダイブ!!
「うおおおおお!!」
神威くんは流星群のように次々と飛び掛かるねこちゃんに驚いている。
「んんんんんん!!」
一気に全身を覆われ、自由を奪われたようだ。なんだかシュール。
「んんっ!!」
木天蓼に興奮するねこちゃんの暴動に悶える神威くん。ちょうど顔面に太ったドラねこちゃんの股間が当たっている。
「あははははっ!! ねっぷ何やってんの!?」
「ギャハハハハッ!! こりゃ傑作だ!!」
「何やってんだか…」
「ねっぷせんぱいモテモテです!」
ねこだるまと化した神威くんは、重みと視界不良により上手くバランスが取れずふらついてきた。
バサッ!!
「うにゃー!!」
「わななー!!」
「ぎうぎー!!」
どうでも良いことかも知れないけれど、ねこちゃんの鳴き声を縦に読むと『上着』、『担う』、縦と左斜めで『柳』右斜めで『ウナギ』などと読める。
二文字に区切ると『ウニ』、『罠』、『庭』、『なう=Now』、『凪』とも読める。
とうとう耐え切れなくなった神威くんがその場に倒れ込んだと同時に、ねこちゃんたちは四方八方へ解散した。
解放されてホッとした様子の神威くんは、顔や腕などあちこちに引っ掻き傷があった。男の勲章だね。
結局、彼は何がしたかったのだろう。猫寄せ術とか銘打ったパフォーマンスかな?
まぁいっか。とりあえず、中二病の類だよね。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
今回も臨時更新となりました。神威は麗を喜ばせようと猫を呼びましたが、なかなか上手くいかないようです。