表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さつこい! 麗編  作者: おじぃ
北海道での日常編
4/69

少女はパンを咥えて走り出す!?

 ピピピピッ! ピピピピッ!


 目覚まし時計が鳴り始めてどれくらい経っただろう? そろそろ起きようかな。いま何時だろう?


 6時59分か…。


 って私のバカ! 6時59分か…。とか呑気にしてる場合じゃない! 寝坊しちゃった! もういつもの電車に間に合わない!


 直ぐさま起き上がり部屋を飛び出して階段を駆け降り、キッチンのトースターでパンを一枚焼く。朝食を摂らないのは身体に良くないので、恥ずかしいけど少女マンガみたいにパンをくわえながら行こうと決めた。


「きょう最も運勢が悪いのは、ごめんなさ~い、乙女座のアナタ! 思わぬアクシデントが発生! 空から黒い悪魔が飛んでくるかも。外を歩く時は気をつけて! でも大丈夫! そんなアナタのラッキーアイテムは、CD。全身にCDを纏って出掛けましょう! きっと魔除けになるはず!」


 うぅ、寝坊するし、テレビの占い最下位だし、なんだかイヤな予感…。今はとりあえず着替えなきゃ。


 再び部屋に戻って大急ぎで制服に着替えてキッチンに戻ると、ちょうどパンが焼き上がった。


 月曜日、胸の鼓動が収まらなくて3時まで眠れなかった私は、生まれて初めて寝坊というものを経験した。


「いってきまーす!」


「いってらっしゃ~い!」


「黒い悪魔に気を付けるんだぞ~」


「は~い」


 黒い悪魔って何だろう? 全身に魔除けのCDを纏って出掛けるわけにもいかないし…。


 両親に挨拶をして、パンを咥えながら家を出てバス停へ速足で歩いていると、思わぬアクシデントが発生した。


「カァッ、カアッ!」


 きゃぁぁぁ! 占い当たっちゃったー! 電線に留まっていた五羽のカラスの集団が私を目掛けて一直線! バッサバッサと羽音をたてて私を取り囲んだ。


「ん!? んんんっ!!」


 何!? なんなの!? パンが欲しいの!?


 あっち行けと通学カバンを振り回すも、抵抗虚しく一羽のカラスが私の身体に触れることなく鋭い爪でスマートに食パンを奪い去り、そのまま空高く舞い上がった。なるほど、食パンを咥えながら登校すると、運命の人と出会うんじゃなくて、カラスに襲われるんだ。現実って厳しい。


 全身にCDを纏って出かければ光の反射でカラスが寄って来なかったかも。


「アホ~アホ~」


 うるさいなぁ。あのカラスたち私のことバカにしてるの? あんまりアホとか言うと焼き鳥にしちゃうよ?


 バスに乗っていつもより20分ほど遅く駅に着くと、待っていたのは運賃の他に100円の料金が必要な特急型の車両を使用した座席定員制列車。少しお金かかるけどしかたない、これを逃したら遅刻しちゃうもん。今日は朝からツイてないな。


 列車に乗り込み、リクライニングシートに腰掛けて座席上の荷棚に通学カバンを置き、軽く溜め息をついて心を落ち着かせると、ふと雪まつりで音威子府くんにチョコバナナを手渡した時のことを思い出し、緊張で再び胸がざわめき始めた。


 うわぁぁぁっ、恥ずかしい…。学校に行ったら音威子府くんとどう接したら良いだろう? なんだかオドオドしちゃいそう。


 ◇◇◇


 ふぅ、間に合った。


 教室で着席したのは始業7分前。普段は始業30分前に登校して読書をしている。


「おはよう留萌さん! 今日も雪が降ってるね! まだ登校したばっかりなの?」


 2分後、いつも通り始業5分前に登校してきた音威子府が元気に話し掛けてくれた。朝、彼に声を掛けられるのはこれが初めて。


 あぁ、なんだかとっても嬉しい。嬉し過ぎて頭の中にお花畑が…。


「おはよう。うん、まだ来たばかりなの」


 嬉しいのに、感情を表に出して喋れない。訳あって、いまこの場では笑いたくない。


「へぇ、寝坊でもしたの?」


 そうなの! 昨晩、よく眠れなくて、気付いたらいつもより一時間半も寝坊しちゃった!


「うん」


 うぅ、やっぱり緊張して淡白な喋り方になってしまった。思っている事を素直に口に出すのが躊躇(ためら)われる。


 ◇◇◇


 昼休みのチャイムが鳴ってワイワイと騒がしくなる教室。


 音威子府くんに鮭のおにぎりを渡さなきゃ。うぅ、緊張する。


 よし、行くぞ、がんばれ私!


 呼吸を整えて、いざ、窓際の彼の席へ。


「あの…、音威子府くん、ちょっといい?」


 緊張で(ども)っちゃって上手く喋れない。


「おう! 留萌さん! ちょっとでもたっぷりでもどうぞ!」


「ありがとう、ちょっと廊下に来てくれる?」


「よろこんで!」


 私は音威子府くんと廊下に出ると、ランチボックスに入った三つのおにぎりの一つを取り出した。


「あの、これ、良かったらどうぞ。おにぎり三つも食べられそうにないので」


 しまったぁぁぁ!! いつもの淡白で感じ悪い口調なだけじゃなくて、食べられそうにないのでとか思ってもいない事まで言って、押し付けがましく思われちゃう!!


「マジで!? サンキュー!! ありがたくいただきまーす!!」


 音威子府くんは私からおにぎりを受け取ると早速ラップを剥がして、とっても嬉しそうにおにぎりを頬張った。いやぁぁぁ!! なんか恥ずかしいよぉ。


「うん! うまい! 鮭かぁ! アスタキサンチンパワーが(みなぎ)るぜ!」


 アスタキサンチンとは、白身魚である鮭のオレンジ色の成分のこと。体内に溜まったサビを落とす作用があり、産卵期に川を上るための活力源となる。音威子府くん、意外なもの知ってるんだな。


「良かった」


「ありがとう留萌さん!! ごちそうさま!!」


 おにぎりを食べ終わった音威子府くんは窓際の席へ戻り、スクールバッグから五本で一房(ひとふさ)のバナナと板チョコを取り出した。も、もしかして私があげた雪まつりの時のチョコバナナ意識してたりして!? いや、いくらなんでも自意識過剰か。


「春が来たぁぁぁぁぁぁ!!」


 昼休み恒例、音威子府くんの叫び。気温は氷点下だし、春はまだ遠いんじゃないかな。


 音威子府くんは仲良しの長万部勇(おしゃまんべいさむ)くんとしばらく会話して、彼の耳元で何かを囁いた。


「うそぉぉぉぉぉぉ!?」


 話を聞いた長万部勇(おしゃまんべいさむ)くんは何かとても驚いている。


 ◇◇◇


 放課後、部活の時間がやってきた。明後日までに雪まつりの新聞を仕上げなきゃ。今日はデジカメの画像をプリントして、レイアウトを考えて…。


「こんにちは」


 部室の扉を開けると、音威子府くんと部長を務めている二年生の知内見知(しりうちみしる)さんが会話していた。


「やぁ留萌さん! 雪まつりは楽しかったかい?」


 知内さんに声を掛けられた。彼女の髪型はショート。太い縁の眼鏡を掛けていて、穏やかな顔付きとは裏腹に好奇心旺盛で行動力のあるジャーナリストだ。


「はい、楽しかったです」


 この淡白な口調、やっぱり感じ悪いな。直したいとは思ってるけどなかなか直らない。


「それは良かった! 新聞、期待してるよ」


「はい」


 うぅ…。お任せ下さい! とか、もっと気の利いたことを言いたい。


 ◇◇◇


「ランラランララ~ン♪」


 帰宅して、入浴や家事を終えた私は、キッチンで身体をフリフリしながら明日のバレンタインデーに持って行くチョコレートの準備をしている。


「う、麗が鼻歌を!! 俺を想って! 嬉しいぞ!」


「アンタを想ってじゃないわよ! いいわねぇ、恋する乙女! 早く孫の顔が見たいわ!」


「ガビーン!」


 隣接するリビングから両親の会話が聞こえる。


 板チョコを湯煎(ゆせん)にかけて、ミルクチョコは星の型に。ピンクのストロベリーチョコはハートの型に流し込んで、ここぞとばかりに愛情もたっぷり流し込んで…。って、いやだもう私ったら!! なんなの!? この幸せな気分はなんなの!?


 本当はカカオを加工するところからやりたかったんだけど、時間がなくて残念。


 あぁ、音威子府くん、鮭のおにぎり喜んでくれた。思い出すだけで顔が(ほころ)んじゃう!


 でも今日はあんまりお話しできなかったな。明日は無事にチョコ渡して、今日よりお話しできるかな?


 さぁ、いっぱい愛情込めてチョコつくるぞ!

 外でパンを食べるとカラスやトビのような大型の鳥に襲われることがよくあります。一瞬で見事に奪われます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ