江ノ島上陸!
昭和の雰囲気が微かに残る二車線の広々とした商店街の横断歩道を渡ってすぐ、今度は踏切を渡り、江ノ電江ノ島駅の横を通り過ぎて土産物店が立ち並ぶ狭い道を下ると、国道134号線越しに相模湾とクジラのような形をした丸みを帯びた緑色の島が見えた。これが江ノ島だ。
「俺、生きてる。生きてるんだな! 生きてるって素晴らしい!」
無事にモノレールを降りられて安堵する長万部くん。良かったね。
「がははっ! そうだろそうだろ! 生きてるって素ぅ晴らし〜い!」
うん、素晴らしい。けど神威くん、キミは長万部くんの寿命を縮めたよね?
地下道を潜って江ノ島に続く500メートルくらいの橋を渡る。
時刻は午前9時過ぎ。まだ観光客は疎らで、地元の人と思われるランナーや、並行する車道にはバスやファミリーカー、自転車、馬車などが走っている。
って馬車!?
えっ!? なになになんなの!? 地元の人たちは違和感なさそうで特に注目していないみたいだけど、目の前に何気なく長友選手が居るくらいインパクトあるよ!?
神奈川県って変わってるなぁ…。
「うおおおおおおっ!! 馬車が走ってるぜ!!」
馬車を見て興奮する神威くん。そうそう。こういうのが普通の反応だよね。
「そういえば湘南では馬とかロバみたいなのが日常的に走ってるって聞いたことある。ここは藤沢だけど、隣の茅ヶ崎は特に多いって」
あぁ、なるほど、『万希葉』だもんね…。
「なるほどな! 万希葉は牧場に居そうな動物の事情には詳しいな!」
そうそう。それそれ。失礼だけれど、私も神威くんと同じこと考えてた…。
「なによそれ!? 別に関係ないし」
うぅ、ごめんなさい…。
「まぁうちでは毎日欠かさず『牧場の朝』食べてるけどね」
『牧場の朝』というのはヨーグルトの商品名。さっぱりしていて毎日でも飽きない美味しさが特徴。
「万希葉はあの牛のキャラクターが好きなんだよな!」
岩見沢さんに言われて、上幌さんは少し頬を赤らめた。
「そうよ。だってなんかその、かわいいじゃない」
私もあのニコニコした牛さんたち大好き。見てると優しい気持ちになれるの。
「万希葉は俺に対しては乱暴になったりするけど本質的には優しいからな! だから優しい顔した可愛いキャラクターが好きなんだよな!」
神威くんはこうして時々嬉しいことを言って人を惑わせる。しかも無差別に。
上幌さんもこんな彼だから、好きになったんだろうなぁ。
「………」
上幌さんは顔を真っ赤にして焦点が定まってない。
「お〜い、万希葉〜、ど〜した〜」
神威くんは上幌さんの眼前で掌を上下動させ、意識の有無を確認した。
「へっ!? あっ、はいっ!?」
「なんだよどうした〜。熱でもあんのか〜? 生きてて良かったな!」
「そ、そうね。生きてて良かった。熱は平熱よ!?」
「そうかそうか! ならいざ江ノ島観光レッツラゴー!!」
このタイミングで橋を渡り切り、江ノ島上陸!
「はーい皆さん! おはよーございまーす! ようこそ湘南、江ノ島へー!」
島の入口で待ち構えていた不入斗さんがお出迎え。
「グッモーニン水菜ちゃん!」
「おーす」
「おはよー!」
「チーッス!」
「おはよう」
「グッモーニンエブリワン! 今日は時間の許す限り地元、湘南の案内をしたいと思いまーす!」
地元出身の不入斗さんを迎えたところで湘南観光、スタートです!
ご覧いただき本当にありがとうございます!
実は出だしの一文でとあるアニメの聖地を通過しています。