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さつこい! 麗編  作者: おじぃ
修学旅行編
37/69

見損なった

 メンバーの一人が蒼褪めた理由は、モノレール電車の走行方式にあったようだ。


「うおおおおおおっ!! この電車、レールにぶら下がって走ってんぞ!!」


 珍しい電車に興奮して雄叫びを上げる神威くんに数百人の怪訝な視線が集まる。この『湘南モノレール』は『サフェージュ式』または『懸垂式』という、文字通り架空レールに懸垂しながら走行する方式。


「あれ? どうした勇?」


 横浜駅では岩見沢さんと元気にじゃれていた長万部がまるで別人のように顔面蒼白だ。


「電車が飛んでる…」


 なるほど、確かに見方によっては飛んでいるように見えなくもないようなそうでもないような。長万部くんは柔軟な発想の持ち主なんだなぁ。私も見習わなくちゃ。


 って、そうじゃなくて、長万部くんは飛ぶ乗り物が苦手なんだよね。


 でもこれ、モノレールだよね…。


「勇、電車は飛ばないぜ? いくら俺でもそんくらいは知ってるぞ。何かあったなら遠慮なく俺に相談しろよな!」


 神威くんは長万部くんがドラッグをやって幻覚を見ていると思い込んでいるのかな?


「いや、飛んでるって。乗るのやめよう。他の電車とかバスとか、手段は色々あるだろう?」


 確か他に横須賀よこすか線で鎌倉かまくらまで行って、江ノ電に乗り換えるルートと、東海道線で藤沢ふじさわに出て小田急おだきゅう線か江ノ電に乗り換えるルートと、大船駅から江ノ島行きのバスルートがある。


「いいか勇、これは飛んでるんじゃない。ぶら下がってるんだ。ちょっとしたジェットコースターみたいで楽しそうじゃねぇか」


「ジェットコースター!?」


 みるみる血の気が引いてゆく長万部くん。神威くん、飛行機に搭乗する前といい今といい、完全に嫌がらせだよね。ちょっと見損なった。


「勇、もしかして怖いの?」


「ギャハハハハッ!! モノレールにビビってるようじゃ宇宙進出できねぇぜ!?」


 少々呆れ顔の上幌さんと、面白がって茶々を入れる岩見沢さん。弱っている人を面白がったりしちゃ可哀相だよ。あ、それとも横浜駅のホームで上り電車のラッシュを見てる時、長万部くんが、間違えても静香には痴漢しねぇYo! みたいなこと言った仕返し?


「別に宇宙進出しなくていい…」


 さっきまで元気だったのに、俯いて完全に意気消沈してる。長万部くん、凄く怖いんだね。


「長万部くん、ジャスミンティーでも飲む?」


 私は言いながら、革製の白い小さなバッグからペットボトル入りのジャスミンティーを取り出し長万部くんに差し出した。


「ありがとう。留萌さんは優しいな…」


 優しいなんて、困っている人を放っておけないよ。善人限定で。


 ジャスミンティーを飲んで少しでも気持ちが落ち着けばいいな。


 顔面蒼白な長万部くんは私に後で買って返すと告げ、ほのかに甘い香りのするジャスミンティーを一口含んだ。


 別に返してくれなくてもいいよ、と言おうとしたけれど、タイミングを逃して言えなかった。


 まもなく降車側のドアが閉まって乗車側のドアが開き、私たちは列に従って乗り込んだ。モノレールも満員状態だけれど、両手を動かせるくらいの混雑ならば札幌圏の通勤時間帯でも日常。最後尾から乗り込んだ私たちはドア付近に立った。


 やがてドアが閉まり、キュイイイン! と高周波ながら控えめな音を立てて発車した電車は加速力が抜群で、懸垂して走行しているため、まるで飛行船にでも乗っている気分。


「うおお、飛んでるみたいだぜ」


「人がゴミのようだな」


 神威くんと岩見沢さんは興奮気味に移り行く景色を見下ろしている。


 高さは10メートルもなさそうだけれど見晴らしが良く、下を歩く人々が少し小さく見える。


 ガクガクガクガク…。


 少し落ち着きを取り戻していた長万部くんの震えが激しくなった。周囲が不審者を見るような目で長万部くんを見る。冷たい都会の人々…。


 幾つか先の駅で殆どの旅客りょかくが降りたので、私たちはオール4人ボックスとなっている席に着いた。長万部くんだけ向かい側のボックスを占領し、蒼褪めたまま横たわっている。


 景色は住宅街から山間やまあいに変わり、本当に海の近くなのかと疑いたくなるくらい。ウサギさんとか居るのかな?


 トンネルに入るとスピード感が増して一層の迫力を味わえる。


「うほーいっ! ガチでジェットコースターみたいだぜ!」


「こらっ、勇が精神崩壊するからそういうこと言わないの!」


 上幌さんの言う通りだよ。神威くんの子供っぽいところは可愛いと思うこともあるけれど、今回のは幼稚だよ。


「万希葉、ねっぷの母親みたいだな!」


「は、母親!? そ、そう、かな…?」


 岩見沢さんに言われて少し頬を赤らめる上幌さん。なんか悔しいけれど、私はそれと同時に『なまはげ』のような神威くんのお母さんを思い出していた。


 思い出したからといって特に何という訳ではないけれど…。


 そんなことを考えているうちに電車は終点の湘南江の島駅に到着した。


 これから無意識のうちに色々な作品の聖地巡礼! この界隈は何処を歩いても殆どが何等かの作品の舞台になっている。物語好きの私には堪らない場所だ。楽しみだなぁ♪ 


 ご覧いただき本当にありがとうございます!


 当作品は毎週日曜日の更新を基本としておりますが、物語の進行に遅れが生じておりますため本日水曜日に臨時更新させていただきました。


 麗が楽しみにしている江ノ島は『エリアの騎士』、『つり球』、『TARI TARI』と今年のみで3本のアニメの舞台となっている観光名所です。

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