湘南新宿ライン物語 水菜編
今回は水菜目線のお話となっております。
これは、麗たち一行が小田原から横浜へ移動中、電車内で繰り広げられた、もうひとつの物語。
◇◇◇
太っ腹なねっぷせんぱいが料金を払ってくれるということで、私たちは地元の路線『湘南新宿ライン』のグリーン車に乗ってます! 2階建て車両の1階席は揺れが少なく、景色は線路スレスレで迫力があり、内装はラズベリー色の座席と間接照明で落ち着いた雰囲気です。
私は大好きな勇せんぱいの隣に座れてドキドキです!
優しい勇せんぱいは、私をさりげなく窓側に座らせてくれました。
「飛行機が苦手な勇せんぱいも地面を這い蹲るように走るグリーン車なら安心ですね!」
でもね、麗せんぱいと見知せんぱいの話によると、車輪がレールに食い込むフラなんとかって部分の高さは3センチ未満らしいですよ! よく脱線しないですね! 怖がりの勇せんぱいにはとても言えません。
「おいおい、俺が飛行機苦手だって何処で聞いた?」
「情報屋さんです!」
ねっぷせんぱいと見知せんぱいが教えてくれました!
勇せんぱいとの会話を楽しんでいると、電車はあっという間に私の故郷、茅ヶ崎に到着しました!
茅ヶ崎にはですね、な、なんと『ラーメンサラダ』のお店があるんです! 湘南に居ながら北海道を味わえるんです! もちろん地元の『しらす丼』や世界の料理を味わえるお店もあります!
茅ヶ崎はハワイを推してる街なので、アロハビズとか、ハワイ関係のお店が多いのも特徴です!
「降りないのか?」
勇せんぱいが心配してくれています!
「はい! 皆さんと一緒に横浜行きます!」
もしかして夜は『港の見える丘公園』でメイクラブしちゃったりして!
「そうか」
そうこうしているうちに発車メロディーが鳴り終わって電車が発車しました。茅ヶ崎駅では桑田佳祐さんが地元出身なので、発車メロディーにサザンオールスターズの『希望の轍』を採用しようという話が持ち上がりましたが、旅客の乗車を促進するためのメロディーなのに、逆に聴き入られそう等の理由で頓挫しました。残念です。
「うおーっ、なんだあの紫とかラムレーズンのアイスクリームみたいな色の電車!? 全部2階建てだぞ」
ねっぷせんぱいが駅を発車してすぐの山側にある、茅ヶ崎電車区に停まっている電車を見て興奮しています。確かにオール2階建ての電車って、あんまりないですね。
「あれは『湘南ライナー』です! 朝と夜のラッシュアワーだけ走る座席定員制の電車なんです!」
ラッシュアワーの東海道線は、旅客線だけでは電車が詰まるので、ライナーが貨物線を走ったり、大船とか横浜では前の電車が出て行く前に隣のホームへ次の電車が入ってきたりと人の多さを物語っています。
神奈川県は日本で人口が2番目に多い906万人くらいですが、実際のところ人が多いというのは良い事ばかりではありません…。
「おおっ、さすが地元の水菜ちゃん! いま乗ってるのは『湘南新宿ライン』で、あっちは『湘南ライナー』なのか!」
「はい! どっちか覚え間違えてる人たまにいます! JRの人はお客さんに間違って質問されたら困るかもです!」
「よし、今度こっち来たらあれに乗るべ! サンキュー水菜ちゃん!」
「ゆあうえるかむです!」
それから約2分、隣の通過駅、辻堂に差し掛かる頃、勇せんぱいから話し掛けてくれました。
「不入斗は今回の旅行、というか帰省で、こっちの友達とかお父さんには会ったのか」
「友達には会いましたけど、父親には会ってません」
「そうか」
「父親に会ってない理由、訊かないんですか?」
「訊いて欲しいのか?」
「う~ん、どうでしょうね。勇せんぱいになら、話を聞いて欲しかったり、欲しくなかったり」
好きな人には自分を知ってもらいたい。でも、知られたら引かれるかもしれない。深くを訊いてこない勇せんぱいは、きっと私の考えを察している。
「そうか」
「私、父親とはあんまり仲良くなくて。だから離婚を機に母親と一緒に札幌へ引っ越しました。茅ヶ崎は友達も沢山住んでるし、海も山もあって、ショッピングセンターとか大型スーパーもあるし生活に困らくて、いい街なので好きだし、離れるのは寂しいですけど」
「そうか。ねっぷ以外には内緒にしてたんだけど、うちも両親が不仲でいつ別居とか離婚するかわからないんだ。だから、なんとなく不入斗の気持ちがわかるような気がする」
「そう、なんですか…」
勇せんぱいも私と同じような悩みを抱えてるのかな? 好きな人には幸せであってほしい…。
「なんで夫婦って上手くやれないんですかね? 私の友達も両親が離婚してる人が何人か居るんです。愛し合って結婚したんじゃないんですかね? お互いが愛し合ったからこそ、私たち子供が生まれたんじゃないのかな? ただ欲情して生み落とされただけなら、望まれていないなら…」
やだなぁ、どうして私、勇せんぱいにこんなこと…。肩の震えが止まらない。顔を見られたくなくて、下向いてるしか出来ない。
私が生まれなければ、きっと両親の関係は憎しみ合わないで、友達同士でいられるくらいの関係でお別れ出来たかもしれない。
「不入斗、電車の中じゃアレだから、後で時間がある時、二人で話さないか?」
キュピーン! これはもしかして!?
「…それは、デートのお誘いですね?」
まさか勇せんぱいからアプローチされるなんて! これはフラグ立ちましたね!
「なんでそうなるんだ!」
「照れてる照れてるぅ~」
照れてる勇せんぱい、か~あいいっ!
「照れてねぇよ」
ふふっ! 照れてる照れてないはともかく、勇せんぱいから心配してくれて、トークのお誘いしてくれて、嬉しいです!
「勇せんぱい、ありがとうございます!
今度ゆっくりお話しましょうね! その時は勇せんぱいの悩みも教えてください!」
私も勇せんぱいの元気の源になりたいです!
「あ、うん、わかった…」
もしも、もしも万が一、恋人同士になれなかったとしても、お互いを支え合える関係で居させてくださいね、勇せんぱい。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
麗や神威以外のキャラクターの恋物語もご用意しておりますので、彼らと併せてご期待ください!