表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さつこい! 麗編  作者: おじぃ
修学旅行編
23/69

きんかんときんかん

 泊まった個室は狭いけれど、リラックスして眠れた。


 7時20分頃、私たちは金環日食を観察するため朝食前に近くの公園へ移動した。大楽毛(おたのしけ)先生から専用の観察グラスを受け取り、それを通して太陽を見上げた。曇り空のためか肉眼でも三日月のように欠けている様子が窺えるけれど、私は安全のため使用することにした。神威くんは裸眼で観察している。危ないなぁ。


 ところが数分後、太陽は雲にすっぽり覆われてしまった。


 この日のために『金環』と『金柑』を掛けて一週間『はちみつきんかんのど飴』を舐め続けた私の苦労を無下にされそうと危惧しつつ、キセキを待ち望む。


 でもあの飴は私の好物だ。外はパリパリの飴、中はとろ~りとした甘酸っぱい蜜とのコラボレーションがクセになる。


「おいおいおい! なんてこった! これじゃ金環日食見れないんじゃね? 俺この日のために毎日『はちみつきんかんのど飴』舐め続けてきたんだぞ!」


 あっ、神威くんも舐めてたんだ! こんな願掛けしてたの私だけかと思ってた。ある種の運命を感じるけれど、あまり利口な感じがしない…。


 誰かに分け与えたくないという訳ではなく、私は周囲に気付かれぬようこっそりはちみつきんかんのど飴を口に含んで願掛けした。どうか空が晴れますように。


「残念だな。18年後のチャンスに賭けるしかないな」


 長万部くんの言う通り、次に日本で金環日食が見られるのは18年後、西暦2030年の札幌市周辺。


 2030年か。私、どうしてるんだろう? 神威くんと結婚して小学生くらいの子供に「おいクソババァ! 文字だらけの本ばっか読んでんじゃねぇよ!」なんて言われちゃったり…。


 う~ん、子供にクソババァって言わせれば教育は成功だっていうけれど、なんか複雑…。


 って、そもそも付き合ってもいないし付き合えたとしても結婚できるかなんてわからないじゃない! なんなの!? なに飛躍し過ぎたこと考えてるの!? もうなんなの私!?


「うほーいっ! 金環日食だああああああ!!」


 神威くんの雄叫びにビックリして空を見上げると、太陽の周りだけ雲は晴れ、漆黒を囲む細い金色のリングがあった。金環日食だ!


 今日ばかりは長万部くん、上幌さん、岩見沢さんの三人も神威くんの雄叫びに文句を言わず、ポカンと少し開口して天空のキセキに心奪われている。


「金環日食見れて良かったですね! 勇せんぱい!」


「ああ、良かったな」


「良かったな勇。恋人と一緒に金環日食なんて羨ましいぜ」


「って、なんで不入斗(いりやまず)がここに!?  ねっぷもなに違和感なくすんなり受け入れてんだよ!? それに恋人じゃないぞ」


 突然の不入斗さん登場に驚く長万部くん。胸大きいなぁ。確かEカップだっけ。私はCだけど、もうちょっと欲張りたいかも。


 あれ? 不入斗さんは一年生だから、修学旅行には参加していない筈…。


「バケツの水にボウフラが居るように、私の傍には勇せんぱいが居ます! 私を失った勇せんぱいは苦痛に悶えるんです!」


 なるほど、水を失ったボウフラはたちまち干からびてしまう。


「おいおいそれじゃ俺がボウフラってことか! 俺は不入斗が居なくても苦痛はないぞ」


「いえいえ、今年の4月からは私が居ないと勇せんぱいはダメになりました! 貸切なので私は同乗できなかった飛行機の中での勇せんぱいは激しく苦痛に悶えた筈です!」


 不入斗さんの言う通り、機内での長万部くんは尋常じゃなかった。あまりにも可哀相なので早く空中から解放してあげたくて、乱気流の高度10000メートルからパラシュートで降ろしてあげたくなったくらい。


「ていうか、学校はどうしたんだ」


 長万部くんが問うた。


 長万部くん、愛の力を前には学校であれ何であれ、いかなる障害も空気同然なんだよ。


「有給休暇です!」


 へぇ、不入斗さんはお給料貰って通学してるんだ。特待生かなぁ。


「生徒にそんなもんあるか!」


 そうだよね…。


「無断欠席です!」


 私も一度はそういう大胆な事してみたい。


「連絡しろよ! まだ始業前だから間に合うぞ!」


 長万部くん、その怒号は照れ隠しですか? でもね、正しい事でも怒って言うと相手を不快な気分にさせてしまうから気をつけてね。


「しょうがないなぁ~。勇せんぱいがそう言うなら連絡します」


 不入斗さんはスマートフォンを取り出して学校に母方のおじいちゃんが危篤なのでお見舞いに行くと連絡をした。ちなみに母方のおじいちゃんは札幌に住んでいたけれど、10年以上前に亡くなったらしい。


 それにしても、長万部くんと不入斗さん、息ピッタリでいいなぁ。


 不入斗さん曰く、家庭の事情で神奈川から北海道へ引っ越したために金環日食を見れなくなるのは不服なので、長万部くんや修学旅行とは無関係に帰郷するつもりだったらしい。きゃぴきゃぴしているけれど根はなかなか強いみたい。しっかりしているけれど小心者の長万部くんを支えてあげられる人なのかもしれない。


 ◇◇◇


 金環日食の観察と朝食を終えた私たちは、バスで千葉県にある大きくて有名な遊園地に移動し、六人で楽しい一日を過ごした。不入斗さんも後を追って電車で来場した。


 不入斗さんは神奈川の友達の家やホテルを転々とし、私たちと同じく金曜日に北海道へ戻ると言って遊園地と直結する駅へ向かった。


 ◇◇◇


 昨日とは異なる上野(うえの)のホテルへ向かう貸切バスで、幸運にも私は神威くんと隣の席になった。飛行機とは逆に、今度は私が窓側だ。


「あぁ、なんか口寂しいな。金環日食の時に持ってた飴十個(じっこ)一気に舐めちまったんだよな~」


 えっ!? なんかハムスターみたい。一瞬思って、私は鞄の中ののど飴を取り出した。


「あの、良かったらどうぞ」


「うおっ、こ、これは!」


 神威くんは驚いた顔をしてから、小声で喋り始めた。


「もしかして、う、麗ちゃんも…」


 あぁ、麗ちゃんって呼ばれると、キュン! てしちゃう!


「うん…。願掛けしてました」


「あぁ、そうかぁ、そうだったのかぁ」


 なぜかニヤニヤし始めた神威くんを見て、可愛いと思ってしまう私は、今日もとても幸せです。

 ご覧いただき本当にありがとうございます!


 遊園地はコンプライアンスの都合上紹介できませんでしたが、千葉県には東京ドイツ村や木更津のアウトレットなどの名所があります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ