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さつこい! 麗編  作者: おじぃ
北海道での日常編
16/69

ふたりきりの誕生日会

 5月5日、午前11時30分。私は知内さんに指定された通り、いつものファミレスに到着したのだけど…。


「シリウチ様ですね! こちらへどうぞ!」


「はい。ありがとうございます」


 あれ?


 店員さんに案内されたのは、何故か二人用の席。昼時とあってお店は混雑しており、隣のテーブルには幼稚園児くらいの子供と若い夫婦の家族連れが居る。


 手違いではないかと思いつつ、私は手前、通路側のチェアに座り、音威子府くんへのプレゼントも入っているカンガルー色をした牛革のバッグを膝に乗せた。


 ああ、これはきっと、知内さんに仕組まれたんだ。ねっぷと二人きりで楽しんでちょ! っていう。


 ブルルルル!


 バイブに気付いてスマートフォンを確認すると、やはり知内からのメールを受信していた。


『ファミレスに着いたかい? 今日は勝負の日だ!』


 うぅ…。


 どう返信しようか困ったので、がんばります。ありがとうございます。と、とりあえず送った。


「る、留萌さん?」


 私が到着してから20分後の正午10分前、音威子府くんがキョトンとした顔でウェイトレスさんに案内されてきた。


「こっ、こんにちは…」


 私もだけど、音威子府くんもとても狼狽(ろうばい)しているようだ。きっと私と二人きりだなんて知らされてないんだろうな。


 音威子府くんと二人きりになるのは雪まつり以来だから、緊張して、鼓動が速まっているのがわかる。


 ……。


 しばらく沈黙が続いて時の流れを遅く感じるけれど、実際にはそんなに経っていないだろう。お互いに焦点が定まらずキョロキョロしている。


 正直、雪まつりの時より気まずい…。


「あ、あの、お誕生日、おめでとう…」


「あ、ありがとう。留萌さんは、誕生日、いつなの?」


 相変わらず緊張した面持ちの音威子府くん。


「9月5日」


 私も緊張して必要最低限の言葉しか発せられない。


「そうか~、俺とちょうど四ヶ月違いなんだ。今日はわざわざ来てくれてありがとう」


「ううん。あの、唐突なんだけど、歓迎会の時、飲み物残しちゃってごめんなさい。今日はそれが言いたくて…」


 私は思っていることを正直に打ち明けた。間接キスで気分をモヤモヤさせちゃった事と、音威子府くんのセンスを否定するような真似をしてしまった事を一ヶ月間ずっと悔いていた。


「いやいやいやいや! 俺のほうこそ、なんかその、間接キスとかキモい事しちゃってごめんなさい!」


「えっ!? あっ、いや、その、わ、私は、気持ち悪いなんて、思ってない、よ!?」


 むしろ、ちょっと嬉しかったんだよ? あと、不入斗さんに冷やかされて困る音威子府くんの姿が可愛いかったり…。


 照れ臭さで張り詰める空気にお互いに赤面しながら目のやり場に困っている。


 これって、これってもしかして、本当に期待しちゃっていいのかな!?


「ほ、ホントに!?」


「う、うん。本当に、大丈夫だよ」


 すると、音威子府くんの表情がみるみる緩んでいった。この人わかりやすいなぁ。そんな所も可愛い。


「良かったああああああ!! ありがとう!! 実は歓迎会から一ヶ月間それがずっとネックで、嫌われたかと思って、見知さんが心配して留萌さんと会話させてくれた時も素気ない態度取っちゃって、ごめんなさい!!」


 雄叫びが上がると同時に周囲の視線が集まる。


 それより私が気になるのは、なんで『見知さん』と『留萌さん』なの? なんで私のことはラストネームで呼ぶの?


「そう、だったんだ」


 やっぱり私って、馴染み難いのかな。新入部員の不入斗さんでさえ最初から『水菜ちゃん』って呼んでるよね。


 そう思いながらも、私はバッグからきのう買った、厚手の白いビニル袋に入ったプレゼントを取り出す。


「音威子府くん」


 あ、私もラストネームで呼んでる。みんなは『ねっぷ』って呼んでるのに。だから彼も私をラストネームで呼ぶのかな?


「あの、これ、プレゼント」


 思いながら、私は袋のまま音威子府くんにプレゼントを手渡した。


「えっ!? あ、ありがとう! うわやべっ、あのっ、中、見ていい、かな!?」


 この『汗汗!』みたいな狼狽ぶりも可愛い♪


「あっ、はいっ…」


 落ち着かない様子で包装紙を丁寧に剥がし、中の白い箱を開ける音威子府くんを可愛いなと思いつつ、ドキドキしながら見守る。


「おおっ、これ、あれだよね!? 上手く言えないけど、オシャレなコップ!」


 そう、プレゼントはイタリア製の強化ガラスで出来た、細くて丸いステンレスの取っ手が付いたコップ。温かい飲み物も入れられる。


「うん。音威子府くん、飲み物に凝ってるみたいだから」


「えっ!? あ、うん。この前は変なもの飲ませてごめん。プレゼントありがとう!」


 さっきも謝ってくれたけど、そんな必要ないのにな。


「あ、いえ。あ、あと、私、変なもの飲まされたからって、センスは疑っても音威子府くんのこと嫌いになったりしないよ!」


 しまった! 余計な事言っちゃった!


「あ、はい。ホントにすみません。ありがとうございます…」


 きゃああああああ!! ごめんなさいごめんなさい!! 本当の事言ってごめんなさーい!!


「ああああああのっ! こちらこそ失礼な事言ってごめんなさい! 悪気はないの!」


 私は手を高速で交差させながら身を退け反って懸命に謝った。


 うわああああああ、頭が沸騰しそうで汗かいてきた。


「ぷっ、はははははははは!! いいっていいって!! ぶっちゃけ俺のセンスは良くないだろうし、謝る必要なんかないさ!!」


 良かったぁ。怒ってなくて本当に良かったぁ。音威子府くんが噴き出しで爆笑するのを見て安心した。


「本当に、ごめんね?」


 胸を撫で下ろしながらも誠意を伝えるため合掌して祈るように念入りに謝罪する。


「いやいや、でも留萌さんにそういう事言われるなんてビックリだわ。よっしゃ、このコップ、センスを磨きながら大事に使わせてもらうよ」


 今まで音威子府くんに悪い意味での本音を漏らした事はなかったし、そういうキャラとしても見られていないだろうから、さぞ驚いただろう。


「うん!」


 なんだか可笑しくて、つい笑みが零れちゃう。


 こうして自然に笑えるのって、とっても楽しくて、とっても幸せ。


 それに、音威子府くんも楽しそうに笑っている。それが何より嬉しい。


 今夜は枕を抱きしめながら転げ回って、眠れなくなりそう♪

 ご覧いただき誠にありがとうございます。


 麗は真面目で素直なので、たまに酷い事を考えちゃいます。

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