プレゼント選び
歓迎会から約一ヶ月後の5月4日。外は折角咲いた桜を散らす雨模様。
私の心も雨の中…。
音威子府くんとの間接キスがあってから、彼と私の間の空気は重い。
知内さんが私たちを会話させようと取り持ってくれても、私の緊張と、音威子府くんまで吃ってしまい続かない。
ブルルルル!
午前11時頃、リビングで寝転びながらポテチを頬張るヒグマさんの横で体育座りをしながら情報番組を見ていると、スマートフォンのバイブが鳴動した。知内さんからのメールを受信したようだ。
『明日はねっぷの誕生日! ついては明日の正午、いつものファミレスに集合! 席を予約したので、店員さんに『シリウチ』で予約したと伝えておくれ~』
そう、明日は音威子府くんの誕生日。歓迎会でアドレス交換をした際、即座にPIM情報を確認した私であった。血液型は私と同じO型。音威子府くんが貧血になったら輸血してあげるね。
そうだ、音威子府くんのプレゼントを買いに行こう。雨は夜がピークだって予報で言ってたし、仮に大雨に見舞われても好きな人のためなら関係ない。
ついでに、夕飯の買い物をしてこよう。う~ん、今日はお蕎麦にしようかな。音威子府くんのお傍に寄り添えますように、って…。
きゃー! なんなの私!? だめだめ、下心が過ぎると恋が実らなくなっちゃう!
「クマさん、今夜はお蕎麦にしようと思うんだけど、具は何がいいかな?」
「ごめんなさい仕事します!」
私の問いに、何故かクマさんは身の危険を感じたように飛び上がってリビングをそそくさと出て行った。
そうそう、このクマさん、日本語を喋れるお利口さんなのです。
◇◇◇
14時頃、私は札幌駅周辺のデパートや雑貨店を巡り、音威子府くんへの誕生日プレゼントの選定に精を出していた。今はデパートの通路を歩いている。
ギュッ!
「やあ麗姫!」
この人はいつも突然現れる。
「こんにちは」
背後から急に抱き着いてきたのは、やはり知内さん。彼女は今日も小柄で知的だ。
「レイニーアフタヌーン! ねっぷのプレゼント選びかい?」
「はい…」
この人に隠し事をしても見透かされるので、照れながら正直に返事した。
「そうかい。雨なのにご苦労だねぇ!」
「いえ。でも、どんなものを選べば良いのかわからなくて…」
アダルトビデオとか大人のオモチャはまずいだろうし、買う度胸もない。
「う~ん、チョコバナナ然り、麗ちゃんからのプレゼントならなんでも喜びそうな気がするけどね~」
そ、それはどういう意味ですか…?
でも、確かにチョコバナナは雄叫びを上げて大喜びしてくれた。
「麗ちゃんはねっぷが好きなのだろう?」
「…はい」
歩きながらさりげなく告白させないでください…。
「なら、ねっぷの気を引けるものがいいよね」
「例えば…?」
「『北海道で〇〇しちゃいました』とか。ねっぷ『まりもっこり』好きだし」
「…」
「麗姫! 目が怖いよ! でも少し膨れたほっぺがカワイイぞ!」
『麗姫』と『麗ちゃん』を使い分ける基準は何だろう?
あのようなものをプレゼントするって事は、私と〇〇しましょうって言ってるようなものじゃない。でも、私も決して高尚とはいえない事を考えていた訳だし、知内さんを心から冷ややかには見れない。
「それは冗談として、そこのお店でも見てみようか」
言って知内さんが指差したのは、デパート内のガラス細工のお店。
お店には赤、緑、青など色とりどりのガラス細工が並んでいる。
取手が白いカモメの形をしたマドラーや、50センチ四方くらいのピエロが描かれたステンドグラス、レモンの形をした黄色い栓抜き…。
「あっ、知内さん、これなんかどう思いますか?」
私はなんとなく音威子府くんが喜んでくれそうと直感したあるものを見つけた。
「おお、いいんじゃない? 長持ちしそうだし、ペアでも使えるね。麗ちゃんも良かったらどうだい? 私からプレゼントするよ」
「い、いえ、そんな、悪いです…」
「いいって事よ! かわいい妹分に幸あれ!」
悪いと思いながらも結局買って貰ってしまった。
それから私たちは桜を散らす雨の街を歩き、札幌駅から電車に乗って、発寒駅で降りる知内さんを車内から見送り、そこからは一人の移動空間で家路を辿った。
明日のお誕生日会、晴れるといいな。それで、ちゃんとプレゼント渡せたらいいな。
今日は7割くらいの楽しみと、3割くらいの不安を織り交ぜたみどりの日となった。
ご覧いただきありがとうございます。
今回は短めでお送りしました。
こどもの日は神威の誕生日です。