第五話 敦君と学校での出来事
学校に着くと、学年の違う萌乃は自分のクラスメート達の輪に加わり、俺達は三人で自分達のクラスに行く。
教室に着くと、隣の席に座る奴から話し掛けられる。
「よ、今日も女連れで出勤かい?」
風巻順平、俺の親友で女好きな男だ。
かなりの美男子で、お洒落で性格もまぁまぁ良いが、不思議と誰かと交際したという話は聞かない。
やっぱり馬鹿でかなりの女好きという所がマイナスなのか‥‥
「‥‥なんか失礼なこと考えてないかい?」
「いや、別に」
俺がそう答えると順平は微妙な表情になる。
「で、どうなのよ?」
「何が?」
俺が訊くと順平は俺の耳元に近付き、小声で告げた。
(お前の交際相手、誰を選ぶんだよ?)
「ぶっ!!!」
おもいっきり吹きだしちまった。
(何で知ってんだよ!?)
(お前の爺ちゃんが言ってたぞ、もうすぐ孫が結婚するって)
誰がするか。
というか、本気で法律変える気かあのジジイ。
(どうせお前のことだから光か未来が萌ちゃんだろ? あ、七宮さんもいるか。誰にすんの? より取り見取りじゃん?)
(お前なぁ‥‥そんな簡単に決まるわけないだろ? 大体なんでその四人が候補なんだよ)
(だっていつも一緒にいるじゃん)
(そりゃあ、幼なじみに家政婦だからな‥‥)
(いや、七宮さんはともかく、他三人はいくらなんでも一緒にいすぎだろ。登下校も一緒だし、休日も殆ど一緒だろ? 普通ありえねぇって)
順平はそう言うと俺を睨む。
(なんか、言っててムカついて来た‥‥お前何であんなにモテてるんだよ!)
(別にモテてるわけじゃないけど‥‥)
(じゃあ、どうして毎日毎日あんな美人のメイドに世話してもらって、あんな綺麗で可愛い幼なじみと毎日いちゃいちゃしてるんだよ!?)
(家政婦で幼なじみだからだよ!! いちゃいちゃしてねぇしメイドって言うな!!)
「なーに二人でこそこそ話してんの?」
後ろから光が俺達の首に手を回してくる。
気付いてんのか気付いてないのかは知らないけど、胸があたってる。
「いや、別に何も‥‥」
「本当にそうかぁ? 私の名前が出てた気がするんだけど」
小声で話してたのに、どんな耳してるんだコイツ‥‥
「光、こいつと結婚しないの?」
順平が俺を指差しながら光に訊く。
いきなり何訊いてんだこいつ?
「はぁ!? お前何言ってんの!? 馬鹿じゃねぇ?」
光は意味分からないといった表情になる。
当たり前だ。
ただ声が大きすぎです、皆が一斉にこっちを見てますよ。
「いや、だってこいつ結婚あい」
「言うんじゃねぇ馬鹿!」
こんなところで言ったらどうなるか‥‥
「で、何が言いたいんだよ」
光が順平を睨みつける。
「いや、だってお前こいつ好きだろ? だからぶふぅ!」
順平が光に殴り飛ばされる。
「何馬鹿なこと言ってんだ馬鹿! 殴り飛ばすぞ馬鹿!?」
光サン、もうしっかり殴り飛ばしてますが。
「馬鹿馬鹿言うな馬鹿! 馬鹿って言った方が馬鹿なんだバーカ!」
子供か‥‥
「‥‥何二人して騒いでいるのかしら?」
未来が相変わらずの無表情で俺達の方を(と言うより光と順平の方を)見ながら言う。
「「だってこいつが!」」
順平と光がお互いを指差しながらハモり、お互いに睨み合う。
実は似た者同士なんじゃないかこいつら‥‥?
「‥‥まぁ何でもいいけど、あんまり馬鹿騒ぎしないでね、迷惑だから」
未来は僅かに呆れたような表情を見せると自分の席に戻っていく。
「お前のせいで怒られたじゃん」
「はぁ!? お前がいきなり」
「ほら、二人とも静かにしなよ、また怒られるよ」
ホント、懲りない奴らだ‥‥
「とにかく! こいつとはなんにもないし、なんとも思ってないから!」
光が順平に詰め寄ると、俺が指差しながら強い口調で言う。
そこまで言わなくてもいいのに‥‥
だけど、これはいつものことだ。
昔からいつも一緒にいすぎてこう言われることは何度もあったが、そのたびに光も未来も萌もすぐに否定して来た。
「あ、そう」
順平は意外と冷めた目で光を見る。
「‥‥何だよ、何か言いたいことがあるなら言えよ」
「別に‥‥」
順平が言葉を繋げようとした時、教室の扉が開き、担任の銅実咲先生が入って来る。
いつも通り女子高生に間違われる童顔にナチュラルメイクを施し、スーツを身につけてはいるが、その上から白い薄手のジャンバーを羽織るというややラフな格好で現れた。
「それじゃ、朝のホームルームを始める‥‥その前に」
銅先生が俺の方を見る。
嫌な予感がする‥‥
「音羽、お前、嫁探してるって本当か?」
‥‥最悪だ。