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第四話 敦君の毎朝の日常

「朝だよ、起きて」


「ん〜、後5分‥‥」


俺の朝は、まず寝ている絵里さんを起こすことから始まる。


普通家政婦さんの方が先に起きるもんだと思うけど、絵里さんが俺より先に起きたことは今のところ一度もない。


「ほら、さっさと起きる!」


俺がそう言いながら布団を引っぺがすと、パジャマ姿の絵里さんはゆっくりと起き上がる。


「おふぁよぉございます〜」


「はい、顔洗って来て」


「ふぁ〜い‥‥」


絵里さんがふらふらと洗面所に向かう。


この間に朝食を作る‥‥時もあるけど今日の朝食は絵里さんが昨日大量に作ったビーフシチューだ。


絵里さんの分と自分の分を皿に入れ、一つずつ電子レンジに入れる。


レンジが仕事を終えた頃には絵里さんがうなだれた顔でリビングに来る。


「敦さん‥‥いつもすいません‥‥」


「いいよ、別に。朝以外は全部世話してもらってるし、これくらいしないとね‥‥って言っても、今日は朝起こすだけしかやってないけど」


僕がそう言っても絵里さんの顔は晴れない。


「ですけど‥‥本当は私がやらないといけないことなのに‥‥」


「じゃあ、さ。晩御飯美味しい物作ってよ。いつも楽しみにしてるからさ、絵里さんの料理」


励ますために俺がそう言うと、ようやく絵里さんの表情が明るくなる。


「は、はい、分かりました!」


「じゃ、食べようか」


「はい!」


そしてようやく食べ始める。


カレーは一晩おくと上手いらしいけど、ビーフシチューにそれは当て嵌まらないようで、昨日よりおいしくはなかった。


食事を終えると急いで身支度を整える。


と言っても、制服を着て寝癖がないか確認するだけだけど。


「‥‥よし」


身嗜みを整え、鞄を持って玄関に行く。


「じゃあ、行ってくるから!」


「はい、気をつけて下さいね」


リビングから絵里さんが返事する。


外に出ると光が一人で門の外で待っていた。


「おはよう、光」


「ああ、おはよう。はい、これ今日の弁当」


光はいつも俺の分の弁当も作ってくれている。


なぜか自分が作っているとバレるのが嫌らしく、二人きりの時しか渡さない。


「いつもありがとな」


「いいって、別にたいしたことじゃないし」


「未来と萌は?」


「ああ、まだ起きてないってさ。小母さんが言ってた」


未来も萌も朝に弱い。


見た目も性格も殆ど似てないのに、こういう所は似てるんだよな‥‥


「じゃ、迎えに行きますか」


「ああ、抜け駆けするとあいつらすっげぇ怒るし‥‥」


「抜け駆け?」


「あ、いや、何でもねぇよ! ほら、行こうぜ!」


光は俺の背中をバシバシ叩くと走りだした。




「いつもすみませんです‥‥」


萌が申し訳なさそうに頭を下げる。


なんか萌と絵里さんって性格似てる‥‥


「いいっていいって、別にたいしたことしてるわけじゃないし、萌は気にしなくていいって」


「‥‥それは、私は気にしろってこと?」


未来が光を睨む。


「そりゃあそうだろ。お前起こすのにどれだけ苦労してるか‥‥」


「しょ、しょうがないでしょ、朝は弱いんだから‥‥」


未来は顔を赤らめて俯きながら呟く。


未来を起こすのは光の役目で、俺は中には入れてもらえない。


なんでも「100年の恋も冷めるような姿」らしい。


どんな姿なんだろ‥‥


「今度は敦に起こしてもらうか‥‥」


「だ、ダメに決まってるでしょ!!」


未来が珍しく大きな声を出す。


「じゃあきちんと毎朝起きることだな」


光が悪役のような笑みを浮かべる。


未来は一瞬悔しそうな表情を浮かべたが、すぐに元の表情に戻る。


「‥‥じゃあ、光も毎日ちゃんと一人で宿題やらなきゃいけなくなるわね」


「な、何でだよ!?」


「だって毎日起こしてあげる代わりに毎日勉強教えてあげてるんじゃない。ま、そうなったらあんたの成績どうなるか見物だけど」


未来が意地の悪そうな笑みを浮かべる。


「別に勉強くらい俺が教えてやるけど?」


「へ? い、いや、いいってそんな‥‥」


「ま、あんな解答見せられないわよね」


未来がクスッと笑う。


「‥‥そんな酷いです?」


「そりゃあ酷いわよ。珍解答のオンパレード」


「み、未来!」


光が慌てて未来の口を塞ぐ。


「き、きちんと明日からも起こしてやるからさ!」


「別に馬鹿でも気にしないけど‥‥知ってるし」


「ば、馬鹿とか言うな!! ちょっと考え方がぶっ飛んでて記憶力がないだけだ!」


「そ、そうか‥‥」


それを馬鹿というんじゃ‥‥と思ったけど黙っておく。


「ってか、そろそろ‥‥」


未来を離してやった方がいいんじゃないか? と言う前に、光がバッと手を離す。


「こ、こいつ人の指舐めやがった!」


「あんたが私の口と鼻一緒に塞ぐからでしょこの馬鹿!」


いつも通り、未来と光の言い争いが始まる。


萌は曖昧な表情を浮かべ、ヒートアップする言い争いを見ている。


本当にやばくなったら止める気だろう。


こうやって馬鹿みたいなことをしながら、楽しく毎日を過ごしてる。


でも、もし誰かと付き合うことになったら‥‥こうやって三人と馬鹿やれることはなくなるんだろう。


それは‥‥嫌だ。


だからジジィには悪いけど‥‥もう少しだけ、今のままでいたい。


三人と、少しでも長く‥‥楽しんでいたい。


そう思った。



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