表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/29

第二十七話 敦君とぎこちない朝

「それじゃあ、行ってきます」


梓と、いつも通り迎えに来てくれた光と一緒に、絵里さんに声をかける。


絵里さんは、やや寝ぼけながたも、手を振り替えしてくれた。


「それじゃ、あいつを起こしに行きますか」


光が気合を入れるように顔をバシッと叩く。


「‥‥女の子なんですから、人前でそういう事をするのは、止めた方がいいと思いますけど」


梓が呆れたような視線を光に向ける。


「うるせぇな、お前らだけしか見てねえんだから、いいだろ!!」


そう言いながら、光の顔は赤くなっている。


「大体、女らしさなんて俺には似合わねえし!」


「それはあなたがそう思っているだけでしょう? 女の子らしさが似合わない女の子なんていませんよ」


梓はそう言うと、俺の方を向く。


「敦‥‥も、そう思う、でしょう?」


まだ、口調が拙いというか、わざとらしいというか、どこかぎこちない


「俺は、光の好きなようにすればいいと思う、けど」


光は、俺の答えをまるで聞いていない様子で、こっちを睨んでいた。


「‥‥何か、仲良くなってるな、お前ら」


「ええ、まぁ、一晩かけて色々話ましたし、な」


梓が意味ありげにこちらに目配せしてくる。


「へぇ‥‥ふぅん‥‥」


光が俺のことをじろじろと見る。


「何だよ」


「別に、何でもねえよ」


光は明らかに何かありそうな様子だ。


「不安ですか?」


梓が光挑発するような笑みを浮かべる。


「‥‥何がだよ」


「大丈夫ですよ、私の身の上を話しただけですから」


梓は光の答えには応じず、まるで小さい子をからかうような素振りを見せる。


光はムッとした表情のまま、そっぽを向いた。




微妙な空気のまま、未来と萌の家に到着した。


「いつもすみません‥‥」


萌がいつも通りに先に出て待っていた。


「それじゃあ、起こしてくるから勝手に3人で行くなよ!」


「行かないよ‥‥早く起こしてきてくれ」


光は相変わらずの表情のまま未来を起こしにいった。


「‥‥光さん、どうしたんです?」


当然、光が普通ではない事は萌にも伝わる。


「私がちょっかいを出したからでしょうね」


梓が悪びれもせずに答える。


「はぁ‥‥」


あいまいな表情で返事をした萌は、俺に助けを求めるような顔で見てくる。


だけど、俺にだってよく分からない。


助けようがない。


「あー‥‥梓は、いつも早起きなのか?」


萌の視線を無視して、梓に話かける。


「ええ、そうで‥‥そうね」


梓がたどたどしく返事をすると、萌が梓を見る。


「どうかしましたか?」


「い、いえ、なんでもないです」


慌てて下を向いた萌に、梓が耳元で何かを囁いた。


すると、梓の顔が一瞬で赤くなり、梓に何か言いたげに口を動かすが、何一つ音にはならない。


「‥‥萌?」


「い、いえ、なんでも、なんでもないです‥‥」


取り乱して慌てている萌の返事は、とても小さい声だった。




「で、どういう事なのかしら」


光と一緒に出てきた未来が、俺を睨んでいる。


「どういう事って‥‥」


「たった一日しか経ってないのに、随分と打ち解けすぎじゃない?」


未来の表情は相変わらずクールだ。


ただ、未来の言葉からは、苛立ちを感じ取れる。


「一緒に暮らしているんですから、仲良くなるのは当然でしょう?」


未来の冷たい視線に梓は一切動じない。


「その速度が早すぎるって言ってるのよ」


未来はそう言ってもう一度俺を睨む。


「どういう事なのかしら?」


「どういう事って言われても‥‥友達だから」


俺の返答に、萌はほっとしたような表情をし、未来は呆れたような顔で光に何かを耳打ちしている。


「いや、だって急に親密になってるから」

光は顔を赤くして慌てた様子で何かを言い訳するように早口でまくし立てる。


「ええ、友達ですからね、今は」


梓がにっこりと笑いながら言い放ったその言葉が、場を一瞬でフリーズさせる。


「そうね、友達ですものね」


未来が『友達』という言葉を強調する。


「ええ、友達です、今は」


梓は、もう一度同じ言葉を、『今』という言葉を強調する。


二人の間に、異様な空気が流れる。


そんな二人を萌が黙ったまま心配そうに見ている。


光は、俺をどうにかしろと言いたげな目で見てくる。


二人が険悪なムードなのは、俺にも分かる。


だけど、このムードをどうにかする方法を、俺は知らない。


「あー、えっと、その‥‥とにかく、そろそろ行かないか?」


「‥‥ええ、そうね」


未来が呟くような声量で応え、梓は黙ったまま頷く。


ただ、学校に着いても、この心臓に悪い空気は、消える事はなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ