第二十話 敦君と四人の帰宅
店から出た俺達は五人で帰る事にした。
「結局、いつもと同じような服ですね」
「いいんだ、これで」
銅先生は少し顔を赤らめながら答える。
俺達四人で可愛い服を色々と選んだのだが、結局銅先生は気に入らず、いつもと同じような服を買った。
今は、絵里さん、加瀬部さんが買った服と共に、俺の持つ荷物の一つになっている。
服とはいえ、三つもあるとさすがに辛い、というか歩きにくい。
「あの服似合ってたんですけどね」
絵里さんが残念そうに言うと、銅先生は黙ったまま首を横に振った。
「たまには雰囲気変えるのもいいと思うです」
「必要ない」
萌の意見もばっさり切る。
「敦さんがもっとプッシュすればきっと」
「敦は関係ないだろ」
最後に加瀬部さんがクスクス笑いながら言うと、銅先生は初めて反論した。
「あら、そうですか?」
「当たり前だ」
銅先生がそう答えても、加瀬部さんはクスクス笑っている。
「お前、僕の事嘗め切ってるだろ」
「いえ、そんな事はないですよ」
「お前の歴史の評価1にしてやる」
何子供みたいな事言ってるんだか‥‥
完全に加瀬部さんに遊ばれてる。
「ま、そんな事はともかく‥‥単刀直入に聞いちゃいますけど、銅先生は敦さんの事、どう思ってるんですか?」
その言葉で、辺り一帯の空気が凍ったような雰囲気になった。
加瀬部さんはもちろん、絵里さんと萌も聞き漏らさないように、銅先生の言葉に集中している。
「‥‥建前は私の大事な生徒だ」
「本音は、なんなんですか?」
加瀬部さんが間髪入れずに訊く。
「何で本人がいる前で言わなきゃいけないんだ」
「って事は、本人の前で言えないような事思ってるって事ですか?」
「そ、それは‥‥」
銅先生が詰まる。
加瀬部さんは好機とばかりに不敵な笑みを浮かべた。
「どうなんです?」
銅先生は少し黙った後、小さめな声で、
「大切な幼なじみだ」
と言った。
「それだけですか?」
「それだけだ。以上でも以下でもない」
以上もなにも、お釣りが来る程の評価だ。
「ならいいですけど」
加瀬部さんはそう言うと、俺の腕に抱き着いてくる。
すでに俺は慣れたけど、他の三人にとってはそうではなく、一瞬の間の後三人が加瀬部さんを見た。
「加瀬部さん、何してるです!」
「何って‥‥腕組んでるだけですよ?」
実際は腕を組む、というよりも胸を押し付けている、という表現の方が正しい。
「こんな所でするな」
銅先生が苛々しながら注意する。
「いけませんか?」
「教師として不純異性交遊をさせるわけにはいかない」
「不純じゃありませんよ。私は敦さん一筋です」
「そういうわけじゃなくてだな‥‥」
銅先生は困惑と呆れが混ざった顔になる。
「分かりやすく言うなら、あんまり人前でベタベタされると注意しないわけにはいかない、という事だ」
「じゃあ、二人きりなら構わないんですか?」
加瀬部さんが間髪いれずに訊くと、銅先生は溜め息をついた。
「構わない事はないが、注意は出来ないな‥‥それにしても」
銅先生が俺の方を向いた。
「ウブな敦が胸押しつけられて平気でいられるとは思わなかったな」
「まぁ、朝からずっとですからね。さすがに慣れましたよ」
俺がそう答えると、加瀬部さんはさらにぎゅっと近づいてきた。
銅先生は注意しても無駄だと思ったのか、それを無視したまま、真面目な顔になる。
「それで‥‥嬉しいのか?」
「は?」
「いや、いくら敦でも、健全な男子としては、女子のこういうのは嬉しいのか、と」
真面目な顔で何訊いてんだこの人‥‥
「あ、銅さん、そういうのはあまり‥‥」
それまで顔を赤くして黙って見てた絵里さんが、さらに顔を真っ赤にして注意する。
「ふむ、それもそうか」
銅先生が呟く。
ちょうどその時、十字路に差し掛かった。
「じゃあ、僕はこっちだから」
銅先生はそう言うと、俺の手から荷物を取る。
「じゃあ、また明日」
銅先生と手を振って分かれる。
四人になった。
加瀬部さんは相変わらずくっついたまま、絵里さんはやっぱり顔を赤くしているし、萌はなんともいえない複雑な表情になる。
会話が何もない。
気まずい。
空気が重い。
何か言わなきゃと思うけど、何も言葉が出て来ない。
必死に頭を使っていると、ふいに加瀬部さんに抱き着かれていない方の手に温もりを感じた。
見ると、萌が真っ赤な顔で俺の手を握っている。
「も、萌‥‥?」
普段は、こっちから手を繋ごうとしただけで真っ赤な顔なのに、まさか萌の方からこんな風にしてくるなんて思ってもみなかった。
正直、困惑した。
「な、なんでもないです!」
なんでもないって‥‥
「敦さん、なんで顔赤くしてるんですか?」
加瀬部さんが不満げに言う。
「そんなこと‥‥」
ない、とは言えない。
正直、いきなり手を繋がれてドキドキしている。
「私はここまでしてるのに、萌さんは手を繋いだだけで赤くなるんですね」
あれ、なんでこんな雰囲気になってるんだ‥‥?
ここは絵里さんに助けを‥‥
「敦さん‥‥」
絵里さんが小さな声で俺の名前を呼ぶ。
そしてすぐに、後ろから俺の服を引っ張ってきた。
「絵里さん‥‥?」
「あ、あの、その‥‥」
絵里さんは顔を赤くしたまま背ける。
三人の美女に囲まれて、普通ならうはうはなんだろうけど、実際は空気が重すぎて逃げ出したくなる。
周囲の視線が痛い。
俺このまま帰らないとなのか‥‥?




