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第十八話 敦君と服屋の出来事

「うわ~、いっぱいありますね!」


加瀬部さんはこれまで見せた事がないウキウキしたような表情になる。


「まぁ、ここらでは一番大きな店ですし、それなりに品揃えも」


「私、見てきますね!」


俺が喋ってる間に、加瀬部さんがどこかへ走って行く。


「あ、ちょっと!」


「私、見てくるです」


萌が加瀬部さんを追いかけて行く。


いきなり一人にされてしまった。


しょうがない、店のレジ前で待つか‥‥


入口の近くなら二人も戻って来たのが分かりやすいだろうし。


そうと決まれば移動しよう。


といっても、本当にレジの前じゃ店の邪魔になるし、脇にでもいさせてもらおう。


俺がそんな事を考えながら歩いていると、


「敦か?」


急に聞き覚えのある声がした。


声のした方を見ると、何故か店の入口に銅先生と絵里さんの二人が立っていた。


「‥‥二人で何してるんですか?」


「服屋だからな。服を買いにだ」


「いや、そういう事じゃなくて」


二人とも知り合いではあるだろうけど、一緒に買い物に行くような仲だったとは知らなかった。


「私はすぐそこで無理矢理誘われたんですけどね」


絵里さんが苦笑いしながら答える。


「‥‥何してるんですか?」


「無理矢理じゃない。敦がここに入ったと言ったら」


「あ、銅さん!」


絵里さんが顔を赤くしてあわてふためく。


俺、今日はとくに何もしてないけど‥‥


「俺がどうかしたんですか?」


「い、いえ、何でもないんですよ」


絵里さんが首をぶんぶん振る。


「敦は何してるんだ?」


「加瀬部さんの付き添いです。もうどこか行っちゃいましたけど」


「じゃあ、今は暇か?」


「まぁ、暇ですけど」


俺がそう答えると、銅先生がニヤリと笑った。


「そうか‥‥ならボク達に付き合え」


「はい?」


「服を買う手伝いをしろと言ってるんだ」


「手伝いって‥‥」


「何も脱がせて着せろとか、ピンク色な話をしているわけじゃない」


銅先生がニヤッと笑う。


アンタ本当に教師か‥‥


「‥‥俺戻りますよ」


「まぁ待て。ボク達が服を選ぶ時に意見を言ってくれればいいんだ」


「まぁ、そのくらいならいいですけど‥‥でもせっかく絵里さんがいるんだから、絵里さんに頼めば」


「何言ってるんだ、絵里の服を選ぶんだ」


「え!?」


驚いたのは絵里さんだった。


「わ、私ですか?」


「ああ。どうせ敦の事だから、服屋でデートなんてしないんだろ」


どうせってどういう事だ。


‥‥まぁ、してないけど。


「で、デートなんて‥‥」


絵里さんが顔を赤らめて俯く。


「だから敦好みにコーディネートしてればいい」


銅先生は絵里さんの意向を一切無視して話を進める。


まぁ、絵里さんも嫌そうな感じではないからいいんだろうけど。


「さぁ、さっさと行くぞ、加瀬部が来る前に」


銅先生は、確かにそう言うと、俺の手を取って歩き出した。




「銅さんは、選ばなくていいんですか?」


俺が絵里さんの服を選んでる間、絵里さんが申し訳なさそうに銅さんに訊く。


「ああ。ボクは一人で選ぶからな。気にしなくてもいい」


銅さんは絵里さんの様子を特に気にすることなく答える。


絵里さんの方が年上なんだけど‥‥


「えっと‥‥じゃあ、着てきますね」


絵里さんが俺の選んだ服を持って試着室に入って行く。


「さて、どうするかな」


「自分の服選べばいいじゃないですか」


俺がそう言うと、銅先生があいまいに笑う。


「ああ、そうだな」


その返答で、もやもやとしていた物が核心に変わった。


「何で俺がここにいるって知ってたんですか?」


俺の言葉に、銅先生はびくっと反応した。


「‥‥何の事だ?」


「さっき言いかけてたでしょう? 『敦がここに入ったと言ったら』って。何で俺がここに入った事知ってたのかなって」


銅先生は、僅かな間俯いて黙っていた。


でもすぐにこちらを向き、


「ここに入るのを見ていたからな。加瀬部」


そう答えた。


俺が求めていた答えだ。


こう答えてくれないと、次に進めない。


「じゃあ――俺が誰とここに来たかも知ってるんですか?」


「ああ、当たり前だろ。加瀬部と一緒に入る所を見た」


やっぱりそうだ。


「どうしてさっきから加瀬部さんの事しか言わないんですか?」


「‥‥何?」


「おかしいと思ってたんですよ。さっきも言ってたじゃないですか。『加瀬部が来る前に』って。俺が誰と一緒に来たか知ってたら、そんな言い方はしないと思うんですよ。俺は加瀬部さんと萌と、三人と来たんですから」


「っ!」


先生は、しまった、という言葉が浮かんでくるような表情になる。


「多分‥‥『二人が来る前に』って言うのが普通だと。だいたい」


「ああもう分かった! 降参だ!」


銅先生が両手を上げる。


「全く、敵わないなお前には」


「ツメが甘いんだよ、みー姉は」


俺がそう答えると、銅先生――みー姉は少し驚いたような顔をして、すぐに微笑みを浮かべた。


「まさかそう呼んでくれるとは思わなかった」


「こう呼べって言ったのはみー姉でしょ?」


「まぁ、そうだが‥‥さっきまで全然呼んでくれなかっただろう」


「みー姉はもっと教師の自覚持った方がいいよ」


みー姉の微笑みが、苦笑いに変わる。


「それで、誰に俺がここにいるって聞いたんですか?」


俺の質問に、みー姉は少し困ったような顔をした。


「それは‥‥」


俺は、おそらく答えだろうと思える名前を出した。


「加瀬部さん、ですか」


みー姉の顔が一瞬だけ強張った。


それが、答えを雄弁に語っていた。


「やっぱりそうか」


「気付いてたのか?」


「普通に考えたら加瀬部さんしかいないでしょ? ここを選んだの加瀬部さんなんだから」


俺がそう答えると、みー姉は一息ついた。


「朝、話してたんだ。放課後敦を誘って街に行くと。その時に服屋にも行きたいと言っていた」


みー姉はそう言うと、真剣な表情になった。


「なぁ‥‥加瀬部の事、どう考えてる?」


急な質問に、答えがすぐに出てこない。


「どうって?」


「好きか?」


いきなり直球な質問がくる。


「可愛い人だと思うし、嫌いではないよ。でも‥‥」


好きになるには、あまりにも期間が短すぎる。


加瀬部さんには失礼なことだと分かってる。


忘れていた俺が最悪な人間だという事も。


だけど、それが真実だった。


それに俺は――


「そうか」


みー姉はその一言だけ呟くと、俺の方に体を寄せてきた。


「みー姉、どうしたの?」


「まだ‥‥誰にでもチャンスはあるという事か」


「みー姉?」


俺がもう一度名前を呼ぶと、みー姉がまた真剣な表情で俺の顔を見た。


「なぁ‥‥もしボクが‥‥敦の事を好きだと言ったら、敦はどう答える?」


「え?」


あまりにも、唐突な告白だった。


一瞬で頭が真っ白になる。


「それって、どういう‥‥」


「冗談だ」


みー姉がニヤッと笑う。


「冗談‥‥?」


「ちゃんとすぐに断らないとダメだろう? お前には加瀬部がいるんだから。ま、ウブな敦には難しいだろうが」


何も言い返せない。


「いや、なかなか見物だったぞ、あんなに真っ赤になる敦、最近見てなかったからな」


「あ、遊んでたんですか!」


「試したんだ、どれだけ加瀬部の事を思ってるか。まぁ‥‥さっきの仕返しも入ってるがな」


みー姉は、そう言うと昔みたいに無邪気に笑った。


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