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第一話 そもそもどうして敦君が嫁を探さなきゃいけなくなったのか

「曾孫が見たいのぉ」


俺の目の前に座っている、とても高校生の孫がいるとは思えない若々しい姿をした大男――――世界的企業『TOWA』の会長にして、非常に忌ま忌ましいことに生物学上では俺の祖父――――青羽昭一おとわしょういちが、食事中に突然呟いた。


「は? ついにボケたかこのもうろくクソジジィ」


「言い過ぎじゃ」


ジジィは言葉とは裏腹に嬉しそうにツッコミを入れる。


俺は当然のごとくスルーして自分の話を続ける。


「何が曾孫が見たいだ、だいたいその歳で曾孫がいる奴見たことねぇよ。ギネスにでも載る気か?」


俺はこの男をジジィと呼んでいるが、実際のところまだ55歳を越えたばかりだ。


喋り方が古臭いわりに若い。


「それは若くして儂が勇人はやとを、勇人がお前を生んだからじゃろう?」


勇人は俺の親父の名前だ。


ジジィは19で親父を、親父は20で俺を産んだ。


「どっちにしろ、俺には無理だろ。相手いねぇし」


「そこじゃ!」


「いきなり大声出すなジジィ」


「お前は儂や勇人に似て容姿端麗、頭脳明晰、おまけに運動神経抜群というのに‥‥17にもなって、まだ浮いた噂一つない!」


「さりげに自慢してるんじゃねぇよ。っていうか、浮いた噂あったほうがいいのか?」


「当たり前じゃろうが。その歳にもなって女の一人も抱いたことがないとは‥‥嘆かわしい。彼のガンジーは13の頃からすでにやることやっていたそうじゃぞ」


「知らねぇよ。そんな偉人と比べるんじゃねぇ」


「偉人に並び立とうと思わんのか」


「そんなとこだけ真似してどうすんだ」


「お前にはそんなとこくらいしか真似出来るとこはあるまい」


「そこを真似した所で行き着く先は確実にダメ人間だろ」


「むぅ、これだけ言っても儂に曾孫を見せぬ気か」


「いや、あんたガンジーの話しか言ってないからな」


「どーしても儂に曾孫を見せぬと言うのか?」


「別にどうしてもってわけじゃねぇけど、今すぐは無理だろ」


俺がそう答えるとジジィは頭を抱えた。


「‥‥そんなに曾孫が欲しいのか?」


「産む気になったか?」


「なってねぇし俺は産まねぇ‥‥単純な興味だ」


俺がそう答えると、ジジィはさもがっかりしました、という顔をする。


「‥‥その顔すっげえウザいんだけど」


俺がそう言うとジジィは深い溜め息をついて真剣な表情になる。


流石に世界をまたにかける大企業の社長だけあって、その表情には凄みがある。


「それじゃ。お前はどういうわけだかお前をあんなに一生懸命に育てた儂に向かってそんな汚い言葉を使うひねくれた男になってしもうた」


「いや、あんたが育てたからだと思うが‥‥」


俺の両親は俺が生まれてすぐに死んだ。


だから、俺を育ててくれたのはこのジジィと何人かの家政婦だった。


「だいたい、さっき嬉しそうにツッコミしてたじゃねぇか」


「あれは久々に孫と会えた喜びじゃ‥‥とにかく、お前がそんな風に育ってしまったから、儂は思ったのじゃみ曾孫が欲しいと」


「‥‥何で?」


「こんなにひねくれた孫よりも可愛い曾孫の方がいいじゃろうが」


「帰るぞ」


「冗談じゃ。今のお前のままでは安心して『TOWA』を任せられんのじゃ」


「別に継ぐ気ねぇし‥‥曾孫とどう関係するんだ?」


俺がそう言うと、ジジイはまた溜め息をつく。


「子供が生まれると人は変わるんじゃよ‥‥守るべきものが出来るからな。儂も勇人もそうじゃった」


「だから、俺も曾孫作って変われってか?」


俺が訊くと、ジジイは頷いた。


どうやら一応ジジィなりに考えがあったようだ。


俺も一応考える。


生意気なこと言っても、様々な面でいつも助けてくれているジジィには感謝してるし、出来る限りジジィの望む通りにしてやりたいとは思う。


だけど‥‥


「いきなり言われてもなぁ‥‥」


いくらなんでも、相手もいない状況じゃ曾孫どころか結婚もありえない。


だいたい俺はまだ17だ。


結婚は出来ないし、子供を作ると世間体的にもやばい。


「せめて恋人くらいなら‥‥つくれないこともないかもしれないけどな‥‥」


俺が何気なくそう言った瞬間、ジジィの目が輝きだす。


「ほう、ということはあてがあるんじゃな?」


「いや、ないけど‥‥」


「まぁ、子供にも及ばんが‥‥恋人も守るべきものに相当するじゃろ」


「おい、ちょっと待て、ないって言ってるだろ」


「いや、その恋人と婚約までいけば‥‥嫁をもらうと同義‥‥いや、法律を変えれば結婚も出来る」


「人の話聞けっ! ってか勝手に話進めんな! 何もう告白成功する前提なんだ! 相手いないつってんだろうが!」


「ここまで来たら恥ずかしがらんでもいいじゃろ」


「いや、恥ずかしがって隠してるわけじゃねぇから! 本当にいないだけだって!」


「またまたぁ」


「ジジィうぜぇぇっ!」


‥‥結局誤解は解けず、俺は恋人を探して婚約することになってしまった。


とりあえず、今日の教訓は『発言には気を付ける』だな‥‥



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