第十四話、敦君と転校生とホームルーム
針のむしろのような厳しい空気の中、なんとかホームルームが始まる前に教室にたどり着いた。
「‥‥なんでそんな疲れてんだよ」
前の席に座る順平が不思議そうな顔で俺を見ている。
説明するのも面倒なんだが‥‥
「ホームルーム始めるぞ」
俺達とは違い、普通に歩いて来た銅先生が普通に入って来る。
「突然だが、転校生を紹介する」
銅先生の一言で、順平の興味は転校生に移った。
「女ですか!? 女ですよね!?」
なんで断定してんだお前は。
「ああ、女だ。かなり美人だぞ」
銅先生がうっすらと笑みを浮かべながら言う。
銅先生の一言で教室のあちこちでクラスメート達がざわめいている。
まぁ、実際美人だからいいんだろうけど‥‥わざわざハードルあげるような事言わなくてもいいのに‥‥
「ほら、入れ」
銅先生が教室の外の転校生に向けて声をかける。
加勢部さんが、ドアを開けた。
一瞬、ざわめきが静まる。
そして、さっきまでとは違う種類のざわめきが起きた。
「ほら、静かに!」
銅先生が教卓を叩くと、加勢部さんの方を向く。
「加勢部梓です。よろしくお願いします」
加瀬部さんは頭を下げた後、笑顔で皆を見る。
それだけで半数以上のクラスの心を掴んだらしく、ざわめきが止んだ。
「それじゃ、皆仲良くやってくれ。加瀬部の席は‥‥」
「私、敦さんの隣がいいです」
銅先生が空いてる席に座らせようとした時、加瀬部さんが俺の方を向いて発言した。
あの人はまた‥‥と呆れる間すらなく、クラス中の視線が俺の方を向いた。
(またお前か!)
隣に座る順平にいたっては、俺を敵意を存分に込めて睨む。
「‥‥そうだな。まぁ、知り合いが近くにいた方がやりやすいか。じゃ、悪いが風巻、加瀬部の場所を空けてくれるか?」
「先生、席ならそこが空いてますが」
そう言ったのは、未来だった。
珍しく苛立ちが表に出ている。
「そうだ、わざわざ移動しなくても!」
光も未来に同調する。
銅先生は二人の言葉を聞いて少し考えるようなポーズをとる。
「あの‥‥」
三人を見てる間に、加瀬部さんは順平の隣に来ていた。
「お願いします、席、譲ってくれませんか‥‥?」
加瀬部さんが潤んだ瞳でじっと順平を見る。
当然順平の答えは、
「了解しました!」
だよな‥‥
「ん、風巻いいのか?」
「はい、美女の頼みは断れませんから!」
順平は本心を一切隠す事なく答える。
加瀬部さんはその隣で「美女だなんて‥‥」とはにかんでいる。
確かに、あの表情とこの笑顔見たら頼みは断れないよな‥‥
「それはありがたいな。じゃ、ちゃちゃっと移ってくれ」
銅先生がそう言うと、順平はてきぱきと支度して空いてる席に移った。
「それじゃあ、次な」
銅先生は、順平が座ったのを確認すると、ホームルームを再開する。
(隣ですね。よろしくお願いします)
俺の隣に座った加瀬部さんは、初めて見せた時と同じように、可愛らしくにっこりと笑った。
休み時間、当然ながら転校生の加瀬部さんの周りに人が集まる。
始めのうちは、好きな食べ物とか、血液型とかそういったたわいもない事だったけど、そのうち答えにくい質問も混ざってきた。
「加瀬部さん、どこから来たの?」
「なんでこんな時期に来たの?」
「音羽君とどういう関係?」
「うーん‥‥秘密、です」
加瀬部さんは、笑顔で質問をかわした。
「えー、何で?」
クラスメート達が不満げな声を出す。
「秘密が多い方がミステリアスな感じでいいじゃないですか」
加瀬部さんは冗談めかした口調で答える。
「朝、加瀬部さん一緒にいたのって音羽君?」
加瀬部さんからはこれ以上答えが聞けなさそうだと思ったのか、質問の矛先が俺に向いた。
「まぁ、そうだけど」
「何で一緒にいたの?」
「一緒に家を出たからですよ」
そう答えたのは加瀬部さんだった。
いきなりの爆弾発言に、クラスメート達の動きが止まった。
「‥‥え?」
「何て‥‥?」
「‥‥どういう事?」
「一緒に住んでるんです」
加瀬部さんがなんでもない事のように言う。
クラスメート達は黙って俺の方を向いた。
「‥‥本当?」
嘘をつけない状況に持ち込まれてる‥‥
「‥‥まぁ、そうだけど」
俺がそう答えた瞬間、教室の中が爆発したような状況になる。
加瀬部さんを見ると、悪戯っ子のように舌を出して笑っていた。
本当にこの人は‥‥!
なんとか年内更新‥‥
来年もよろしくお願いします。