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第十話 敦君と新しい生活

「あ‥‥さ‥‥起き‥‥く‥‥い」


誰かの声がする。


「あつ‥ん、起きてくだ‥い」


女性の声だ。


「敦さ‥‥起きて下さい」


聞き覚えがあるようなないような‥‥


「敦さん、起きてください」


言われた通りに目を覚ます。


すると、目の前には美少女のどアップがあった。


「‥‥‥‥」


頭が全く働かない。


「おはようございます、敦さん」


目の前の美少女がほほ笑む。


「‥‥おはようございます」


オウムのようにそのまま返す。


少女は、なぜかメイドの恰好をしている。


「朝ご飯出来てますよ」


「あ、はい‥‥え」


俺が返事をすると、少女はニコっと笑う。


ちょっとずつ頭が働いてくる。


「もう、朝はきちんと起きなきゃだめですよ?」


「え? ああっと‥‥」


「‥‥まだ目が覚めませんか?」


「あ‥‥ちょ、え?」


少女は困惑している俺を真剣な目で見る。


「目を‥‥覚まさせてあげましょうか?」


少女はそのまま自分の顔を俺の顔に近づいて来る。


「ちょ‥‥ちょっと待って!」


すんでのところで昨日の記憶を取り戻す。


「目が覚めましたか?」


目の前の美少女――加瀬部さんが再びほほ笑む。


「ええっと‥‥まぁ、何とか‥‥って言うか、なんて恰好してるんですか!!」


「普通のメイド服ですよ?」


「メイド服が普通じゃないんです!!」


「こういう恰好、お嫌いですか‥‥?」


俺が叫ぶと加瀬部さんが悲しそうな表情になる。


「いや、嫌いというか‥‥」


目のやり場に困るというか‥‥


「ご不満でしたら今すぐ脱ぎますけど‥‥」


加瀬部さんはそう言うとその場で脱ごうとする。


「ちょ、ちょっと待って、ここで脱がないで!!」


「私は‥‥敦さんでしたら見られても‥‥」


「ダメだから!! 自分の部屋で脱いで!!」




なんとか加瀬部さんを追い出してリビングに行くと、そこにはすでに出来立ての朝食が用意されていた。


それは、とても初心者に作れるとは思えないような物だった。


「凄い‥‥」


「お気に召しましたか?」


着替えた加瀬部さんが訊いてくる。


「そりゃもう、凄いですよ! 早く絵里さんも呼ばないと‥‥」


俺がそう言うと、加瀬部さんは少し驚いたような顔をする。


「あの人、いつもこんな感じなんですか?」


「こんな感じって‥‥まぁいつも起きるのは遅いですけど」


「そう‥‥ですか」


「それと‥‥『あの人』なんて言い方はして欲しくないです」


「え、あっ‥‥すいません」


加瀬部さんはそう言うと頭を下げる。


「それじゃ、私が読んできますから、敦さんはここで待っていてください!」


「え、いや、俺が‥‥」


加瀬部さんは俺が止めるのも聞かずに絵里さんの部屋に行く。


すると、絵里さんは俺が起こす時よりもシャキッとしながら部屋から出てきた。


「絵里さん、顔洗ってきたら?」


「は、はい‥‥」


絵里さんはなぜか落ち込んだような顔をして洗面台に向かう。


「どうやって起こしたんですか?」


「別に、特別な事はしてませんよ」


俺の質問に加瀬部さんはにっこりと笑って質問をはぐらかした。




朝食を食べ終え、俺が出かける支度をし、部屋を出ると、そこには俺と同じ学校の制服を着た加瀬部さんが立っていた。


「‥‥え?」


「それじゃ、行きましょう」


「ええっと‥‥どうしてその恰好を?」


「どうしてって‥‥学校に行くために決まってるじゃないですか」


加瀬部さんが悪戯っ子のような笑みを浮かべる。


「へっ‥‥?」


状況を読み込めない。


「今日から、敦さんと一緒に登校です」


「‥‥それって」


俺の学校に転校して来る‥‥ということ?


「これからよろしくお願いしますね」


「はっ‥‥はぁ!?」


「ちなみに、クラスもいっしょですよ」


加瀬部さんはそう言いながら俺にスルッと近づき、腕をからめる。


思いっきり胸が当たっている。


「ちょ、加瀬部さん!?」


「それじゃ行きましょうか」


「ちょ、ま、待ってください!!」


俺が叫ぶと加瀬部さんは立ち止まってくれた。


「どうかしましたか?」


「い、いや、っていうか、色々と一気に急展開なんですけど‥‥」


「だって黙ってましたもん」


「な、なんで‥‥」


「だって‥‥」


加瀬部さんは笑みを浮かべたまま、答えた。


「そっちの方が面白そうじゃないですか」


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