踏み切りの先
マサトはゆううつだった。
行きたくないなぁ。
別にこれがいやだっていうはっきりしたものがあるわけじゃない。
また、あいつにもアイツにもあいつにも会うのか……
朝から暑い通学路をのろのろと歩く。
足が重い。ランドセルが重い。
別に、いじめられてるってわけでもないんだ。
ただ……1ヶ月以上も休みがあった後だと、相手するのがおっくうなんだよね。話、合わないんだ。
というより、マサトがうまく話に乗れないのだ。
タイミングが悪いのか、空気が読めてないのか……マサトが話にかむと一瞬の沈黙があって、それからすっと話は別の方にそれていく。
だから、みんなが楽しそうにしていると……マサトはひどくつらい。
だからといって、くらい顔をして隅っこにいるなんて……もっとみじめだ。
だから、だから、だから……
マサトは場の空気をこわさないように、友だちみたいな顔をして、仲間みたいなふりをして……がんばる。
がんばっていれば、それなりに声もかけてもらえる。
でも。
2学期最初の登校日は、がんばるのがしんどいって思ってしまう。
踏み切りが鳴って遮断機が下りてきた。
マサトは立ち止まる。
なんだか立ち止まったらもう二度と歩き出せないような気がしたけれど……。マサトは立ち止まる。そうするのが正しいことだから。
まわりにもランドセルを背負った灰色の子どもたちが立ち止まっている。灰色の大人も立ち止まっている。あの人は会社に行くのかな?
大人になったら何になりたい?
そんなことを聞かれたことがあるけれど……。マサトは大人になれるような気がしなかった。
先生が好みそうな答えを、紙に書いておいた。
なんだかこの先もずっとこんななのかと思ったら、ふと「リセットする?」という声が聞こえたような気がした。
今、この遮断機をくぐってその先へ行ったら……
マサトが腰をかがめかかったとき、ランドセルを後ろからぐいと引っ張る手があった。
「リセットなんかできないよ。命はひとつだけなんだ」
やわらかな男の人の声が聞こえて、マサトはふりむいた。
大人の男の人だった。逆光で顔がよく見えなかったけれど、不思議な服を着てかっこよく帽子をかぶっていた。
その人は灰色ではなく、ちゃんと色があった。
「私は未来のキミなんだ。今キミがここで死んでしまったら私も消えてしまう。それは困るなぁ」
そういって男の人は笑顔を見せる。
「キミは絵がうまいだろ? 未来のキミは私になる。これでも少しは名の知られたデザイナーなんだよ。今のキミには想像もつかないかもしれないけど」
マサトはぽかんとその背の高い男の人を見上げた。
そういえば、少しお父さんに顔が似ているかも。
「だから、ちょっと力を抜いて、今日をがんばってみて? 今日の積み重ねの先に未来があって、そこに私がいるから」
男の人はもう一度笑った。
「私を消さないでくれないか。しんどいときは、地面じゃなくて空を見上げてごらん」
そういって男の人は空を指さした。
マサトがつられて空を見上げると、真っ青な空にもこもこの雲がいくつも浮かんでいた。
そしてマサトがもう一度目をもどすと、その男の人はもうどこにもいなかった。
本当に、未来のぼくだったんだろうか……
マサトは不思議な思いで、電車の通り過ぎる音を聞く。
遮断機が上がり、大人も子どもも歩き出した。みんな色が戻ってきている。
マサトはもう一度空を見上げ、それからくるりと向きを変えて踏み切りの向こうへと歩き始めた。
うん。とりあえず2学期だ。とりあえず今日だ。
ぼくはあんなにかっこいい大人になるんだろうか。
了
2学期がゆううつなキミへ。。
子どもは未来の自分に守られている。そんなふうに感じたことが何度かありました。本当だから信じてください。
このお話みたいに実際目の前に現れたわけじゃないですけどね。
ああ、この自分になるために、あのしんどい時期を切り抜けられたんだ——って思たことが、何度かあったんです。そして、そんな自分は誰かを救える存在にもなっていた……。
だから、未来の自分を信じて、今日を切り抜けてください。助けてくれる手は、求めればちゃんとあります。奇跡のように。
キミよりはうんと長く生きたAjuからのお願いです。




