9.サラとカイ
大会当日、会場は朝から多くの人々の熱気にあふれていた。
舞台にあがる本番に向け、イメージトレーニングを繰り返しながら、ぶつぶつ言うサラの横で、クロエはカイに話しかける。
「こんな事まで付き合わせてすみません。でもとても感謝しています。」
「うん、思わぬ展開になって戸惑っているけど、なんだか面白そうだし、僕もいい経験になるよ。」
「カイ様は本当にいつも穏やかでお優しくて、本当に心が広いんですね。サラ様と凸凹っぷりがお見事です」
「ははは、僕たちがお似合いだと褒めているんだね、どうもありがとう。でも、僕は小さい頃、打ち合いの試合が怖くてすぐ泣いちゃう子で、サラにいつも怒られていたんだよ。」
「ええっ、それがどうしてこんなにお強く?」
「そうだねえ。出会ったのは9歳だったかな。当時弱虫の僕は父からも見放されててね。優秀な兄と比べられる事も多かったかな。サラはね、婚約者候補の中で一番うだつが上がらない僕にね、毎日毎日棒をもってしかりつけるわけ。『しっかりなさい!私が貴方の中の弱虫を追い出してやる‼』って。怖かったし、ほっといてほしいと思ってた。だけど、『お前は弱虫だ、ダメな奴だ』という親と違い、僕自身を否定しないんだよね。『一緒に』弱虫を追い出してやるって、ずっと僕を諦めないでくれたんだ。半分彼女怖さに頑張ったところがあるけれど。初めて試合に勝てた時、泣いてる彼女みたら、『この人を守れる人間になりたい』と強く思ったんだ。」はははと笑いながら、目元を少し赤くしているカイは、なんだかいつもより幼く見えた。
「素敵なお話をありがとうございます。わかりました、サラ様は、私の中の弱虫も我慢ならなかったんですねえ。」ふふふ、とクロエは笑う。
「本当にお二人が羨ましいです。私は『エスコートを忘れられた婚約者』 ですしね…」
辛いことを思い出し、今度は乾いた笑いしか出てこない。
「ああその話は耳にしたが…。うーんダニエル君は優秀だけど、背負う家格や生徒会としての責任で余裕がなさそうにも見えるかな。まだまだ、男として必死で背伸び中なのかなあ。だからといって君をないがしろにしていい理由にはならないが。君は、まず君自身を大事にするべきだ。その一歩が今日だね。僕たちも頑張るよ。」
「はいっ、お願いします!」二人はがっつりと握手を交わす。
「ちょっと、なにしてるの、私を差し置いて!」二人の握手を、サラは自身の両手で上下から挟んで、ぐっと握りこむ。
「うおおお、折れるっ、砕かないでえ!」
「ははは、サラは今日も元気で可愛いね」
三人が騒いでる間に、トランペットの合図が響き渡り、とうとう大会開始の宣言が告げられた。




