8.不安とアイデア
会場では、明日への大会に向けて準備が進んでいた。
設営を行う職員たちが忙しく歩き回っている。
名誉ある大会なので、セイロン国でもかなり古く由緒正しい建物を使用している。
会場の中央には、各作品を展示できる沢山の台が用意されていた。来場者は美術館のように自由に鑑賞できる。左右の壁近くには、テーブルや椅子、ソファがしつらえてある。ここには当日軽食や飲み物も用意される。来場者は休むこともできるし、中には商人が目当ての職人と商談をする事もある。余裕のある貴族はお抱えの職人として契約する事もあるので、試し履きができるよう沢山の鏡も並んでいた。若手職人にとって、世に出るきっかけをつかめるかもしれない場所なのだ。
会場の一番奥は、あまり光が届かず薄暗い空間であったが、大工たちが黙々と舞台のような物を設置しつつあった。
その舞台で大会参加者時は順番に、審査員に対してプレゼンテーションを行う。
夕方には、その審査結果が発表され、受賞者たちは再び舞台に上がることになる。
「これがあの名高いギルド大会なのね、すごい規模だわ・・・」さすがのサラも圧倒されたように肩をすぼめる。ふと横を見ると、青くなっているクロエにぎょっとする。
「元気出して!あなたは何も失うものがないのだから、どーんとぶつかればいいのよ」サラは慌ててクロエを励ます。
「私、プレゼンテーションなんてすっかり忘れていました…。ただ靴を展示して見てもらうだけと思い込んでました。私みたいに地味な人間には無理だわ!」頭を抱えてクロエはしゃがみ込む。
「そうだね、緊張するよねえ。僕も騎士見習いになって初めての試合は、緊張のあまり剣を持つ手が震えたよ。」
わかるよ、うん、とカイは頷く。クロエの不安に寄り添おうとしてくれるカイの優しさを感じる。
「騎士クラスでは上位のカイ様も、最初はそうだったんですね。それで、どうやって乗り越えたんですか?」
「ああ、相手の一撃で、あっさり僕の剣は跳ね飛ばされて、ぼこぼこにされてね。もう騎士になんかなりたくないと家出したんだ。懐かしいなあ。ははは」
「ぜんっぜん慰めにならない!」
クロエは絶望で天を仰ぎ見る。涙目になりながら見上げた先に、バルコニーのような二階席が視界に入った。どうやら位の高い貴族たちのための特別席のようだった。高級そうなソファが並べられ、その背後には威厳を示すかのように重厚なタペストリーが何枚もぶら下げられていた。タペストリーの隙間からもれた光が筋となり、室内の埃がキラキラと輝いて見えた。2階に座る偉い人の背から差す光は、きっと後光のように、神々しさを感じさせる演出になるだろう。
(でも、あのタペストリーが窓の光を遮っているから、奥の舞台が暗いのね。せいぜい休憩場所辺りまでしか陽が届いていないわ)
しばらく思案顔のクロエの袖を、サラはひっぱる。
「ちょっと、現実逃避してないでいい加減戻ってきてよ。」
「…ねえ、サラ様、大会のルールに、プレゼンテーション必須とあっても、『必ず製作者本人が行うように』とは、どこにも書いてなかったですよね。」
「ええ、そうね。でもそれが何か?」
「思いついちゃったんですよ。演出を。明日のプレゼンテーションは、サラ様とカイ様、お二人にやってもらいます。」
「はあ?どういう事!?あなた自分の大会から逃げる気!?」
「違いますよ、私の作品のコンセプトにぴったりな、お二人にしかできないプランがあるんです。さらに演出加えるために、私もちょこっとやりたい事があるんです。」
訝しがる二人に、クロエは詳しく説明を始めた。
三人は空いている控室の一部屋をみつけ、遅くまで打合せと練習を繰り返した。




