7.いざゆかん
誤字をお知らせ頂いた方、どうもありがとうございました!まだ様々な機能の使い方がわからず、お礼を言う前に適用したら、お知らせしてくれた方がどなただったか分からなくなりました(泣)すみません。
クロエが交流会の日に用事があると言ったのは、でまかせではなかった。
隣国セイロンで開かれる職人達の大会に参加することにしたのだ。年に一度開かれるその大会は、家具、織物、服飾など様々な部門があり、参加者は自信の品を持ち込み、審査にかけられる。一日の終わりには入賞者への授賞式が行われる。
師匠のマイケルに「競技に参加してみないか」と勧められていたのだ。
交流会と重なっていたので、最初クロエは諦めていた。
それが、ダニエルとの会話中、クロエの中の何かがぷつんときれ、その勢いのまま挑戦することを決めたのだ。
今まさにその場所に向かっている。
「しかし、なぜサラ様がついて来てるんですか?」
がたごとと揺れる馬車の中で、クロエはサラに問う。
「そりゃあ、貴女が心配だからじゃない。地味な貴方じゃ大舞台でやっていけるかどうか。この私がちゃんと見守って指示を出してあげる。安心なさい!」
やや迷惑そうなクロエを横目に、サラは楽しそうにばんばんクロエの背中をたたく。いったぁ…。
「サラ様。力強すぎです。背中割れそうなんですけど。」
「だろう、サラはこんな可憐な見た目なのに、腕力も強いんだ。強くて美しい女性なんて、魅力的だろう。」
ははは、とサラの隣に座る青年が愉快そうに笑う。
「サラ様の婚約者のカイ様まで。なぜ?」
「隣国まで女二人で行くなんて不用心じゃない。カイ様は宮廷騎士を目指していてお強いの。私たちを守ってくださるわ。」
「そうだね、いきなりあの有名な大会に行くと言い出した時は驚いたよ。観覧でなく、出場するなんてね。クロエ嬢は才能があるんだね」
「いえ、師匠の推薦でちょろっとおまけで参加させてもらうだけなんです。新人さんいらっしゃい枠とでもいうんですかね、職人のすそ野を広げようという事を始めたみたいで。隣国セイロンはモノづくりの国なので。聞くところによると、新しい王太子の意向で、若い職人育成に力を入れ始めたようです。」
「だとしても、マイスターの推薦をもらうなんて凄いことだよ。隣国では女性の職人も沢山活躍していると聞く。我が国はその点遅れているが、変わるべきだと僕は思うよ。サラのような、弱き者に心優しい女性が活躍できるよう、この国は変わるべきなんだ。」
カイの言葉に、嬉しそうにサラは「やだっもうっ」とカイの背中をばんばんたたく。
ははは、と慣れたように身をかわすカイ。
(んーでも、ダニエル様と別れろと迫るサラ様は、「弱きを助け」というより、「弱きを駆逐してやる」って勢いでしたが)
つい1か月程前の出会いを、クロエは遠い日の事ように思い出す。
「でも、カイ様は交流会に参加しなくてよかったのですか?」
「サラがいない会に一人で参加してもつまらないよ。むしろサラが心配で仕方ないから、一緒に来させてもらって良かったよ。クロエ嬢、ありがとう。」カイは愛おしそうにサラを見つめる。なんてどこまでも優しい婚約者なんだろう。そうか、これが愛なのか。
「もうっ、カイ様ったら!サラに過保護すぎますっ」
「ごめんごめん、僕が単にサラと一緒にいたかっただけかもね。」
照れたサラは、もうっもうっといいながら、カイの腕を何度もたたく。
「ははは、筋肉はいいけど関節を攻めるのはやめてくれるかな、そこは鍛えられないからね。ははは。拳で殴るとき中指の関節だけを微妙に突き出させるのも危ないね、力が面でなく点に集中して、僕をえぐってくるからね。サラは相変わらずお転婆だね。ははは。」
睦ましい二人をみていると、ほっこりした気持ちになり、クロエの緊張もほぐれてきた。
組み手争いのようなじゃれ合いを一通り交わした後、サラはクロエに向きなおって真剣な表情を向ける。
「クロエ様、大丈夫よ、貴女の作る靴は素晴らしいわ!そりゃ技術は全然だけど、可能性を感じさせるわ。見た目だけじゃない、履く女の子の足を考えた優しさを感じるもの。男性のエスコートを必要とする不安定さがないもの。一人で立ってどこまでも歩いていきたいって、思わせてくれるわ!」
そう、私のような女性にピッタリよ!と力説するサラに、不覚にも泣きそうになる。
思わずサラを抱きしめ、サラの髪に顔をうずめながら、「…ありがとう」と囁く。
真っ赤になって固まってしまったサラを見ながら、はははと笑うカイの声が響いた。




