6.もやるダニエル
次の交流会にダニエルは一人で参加していた。一人で入場した時、「いよいよ婚約破棄間近か?」と会場はざわめいた。
「ダニエル、今日は一人なんだな」グレッグが挨拶代わりに手を挙げながら、声をかける。
「ああ、今日はクロエは欠席なんだ。おかげで時間ギリギリまで仕事ができてはかどったよ。」自分の肩をもみながら、やれやれという感じでダニエルはため息をつく。
「その言い方はどうかと思うがなー。そういえば最近お前のファンの間での噂を聞いたが、クロエ嬢とは上手くやれてるのか?」
「噂?」
「中庭でお前とクロエ嬢と揉めていたのを見た者がいるらしい。クロエ嬢は『もうエスコートは辞退する、クリスティーヌとお幸せに』と言って泣きながら走っていったとか。ファンの間では、とうとうクロエ嬢がお前とクリスティーヌのために身を引いた、という事になっているらしいぞ。」
「はあ!?なんだよ、それ!クロエはたまたま用事があって今日だけ欠席なんだぞ。何の用事か後で聞こうと思って忘れてたが…。だいたい、身を引くってなんだよ。それに彼女泣いてもないぞ!」驚きのあまりつい大声でどなってしまう。
「やっぱりガセか。まあ、普段のお前のそっけない態度見てれば、そういう噂も信ぴょう性が増してしまうけどね。」
「余計なお世話だ」
「そうだな、悪かった。だいたい今朝はお前とクロエ嬢一緒だったもんな、そんなわけないか。気分を悪くさせてすまなかった。」グレッグはダニエルの肩をぽんと軽くたたく。
「今朝?いや、俺はクロエに会ってないぞ」
「あれ、寮の前で長距離用馬車が止まっていて、クロエ嬢が男子生徒に手助けされながら乗り込むのを見たんだが。その後その男も一緒に乗ってたから、てっきりお前がクロエ嬢に付き添ってるのかと思ったが、違ったのか…」
「おい、それは本当にクロエだったのか?その男に見覚えは?」「うーん、クロエ嬢が笑顔でこっち向いたのが見えたから、見間違いじゃないと思うんだけどな。男の方は背中しか見てないから、誰かはわからないなあ」首を傾げ顎を触りながら、グレッグは思い出そうと斜め上を見る。
「すまん、朝早かったから俺も寝ぼけてたのかも。やはり人違いかもしれん。忘れてくれ」
この話題はここまで、といわんばかりにグレッグは別の友人に声をかける。
「クロエが…男と一緒…しかも笑顔…?」ダニエルはその後しばらくもやもやが消えなかった。




