3.反省するダニエル
時は少しさかのぼる。クロエが置き去りにされた交流会の日だ
交流会がお開きになった後、ダニエルは仲間と、評判の新しいサロンに移動していた。
仲間だけなのでぐっとくつろいだ空気になる。
「隣国セイロンの姉妹校との合同講義は3か月後か。今回は卒業生でもある各界のお偉方がゲストでいらっしゃる。いよいよ準備で忙しくなるな。」
「交渉の場にはダニエル来てくれよ。例のパーフェクトスマイルで。女性の好感度一気に上げられる。」
「まあいざ交渉が始まれば、冷静かつ倫理的すぎて表情が一気に死ぬけどな。豹変しすぎて怖がる令嬢もいるよね。」「逆にそれがいいと涙目になる子もいるが…」
「ダニエル、最初だけだ、全力でキラースマイルを頼むよ。後はやりたいようやっていいから。俺らがフォローするからまかせろ。」
「お前たちはいつも言いたい放題だな」
ダニエルはうんざりしたようにソファの背もたれに深くもたれかかる。
「ダニエル様、今日は交流会からずっとご一緒出来て嬉しいです。」
生徒会仲間のグレッグの妹、クリスティーヌが隣に座り、可愛らしく微笑む。
二人とは、家同志の領地が近く、ダニエルにとって気心知れた幼馴染だ。
「そうだな、ダニエルの婚約者だけが、我々のグループにいないから、ダニエルは一旦エスコートで別行動してたもんな。こうやっていつも皆で一緒に移動出来たら楽なのにな。」
「そうですわ。私はまだ婚約者がいないので、いつも一人で自由ですが。でも今日はダニエル様がまるで私をエスコートしてくれたようで嬉しかったです」頬を染めるクリスティーヌは、大きな瞳を潤ませる。
「わすれてた!!帰りのエスコート!」
ダニエルはがばっと立ち上がる。何事だと驚いていた仲間たちも、理解すると徐々に深刻な表情になる。
「おいおい、それはまずいんじゃないか。」くつろいでいたグレッグも姿勢を正す。
「誰かに代わりを頼んでもないのか?まさか婚約者を一人で帰宅させたのか?さすがにそれは…」
ダニエルの顔が青くなる。
「ダニエル様の婚約者ってクロエ様ですよね。地味で有名な。地味なのに有名って謎ですけど。交流会でもいつも壁際にお一人で。社交を学ばれる努力を怠ってますよね。ダニエル様の婚約者としてご自覚がおありなのかしら…」労わるような眼差しでクリスティーヌはダニエルにそっと体を寄せる。
「いや、今はそういう話じゃない。人としてそれでいいのか、という話だよ。ダニエル、普段の二人の関係に口出す気はないが、それは蔑ろにしすぎではないか」
「お兄様そこまでおっしゃらなくても。それほどまでにダニエル様の心に、クロエ様へのお気持ちがなかったというだけの事ですわ。ダニエル様は悪くありません」
「おいおい、配慮すらできないとは、男としてどうなんだよ…」
二人の言葉に、ますます自責の念に落ち込んでいくダニエルだった。なるべく早く、クロエに謝らなければ。
翌日クロエを探そうとしたが、よく考えればダニエルはクロエの教室がどこかも覚えていなかった。昔はクロエの方から会いに来てくれていたので、その必要がなかったのだ。
昔は一生懸命自分に話しかけてきてたのに。
緊張しながら体全体で一生懸命自分に話しかけてくる様は、まるで小動物のようだったなと思い起こす。
そういえば最近全く来なくなった。自分は生徒会の仕事が忙しいのでこちらから行けなくても仕方ないが。
人に聞いてクロエの教室を訪ねるが、なかなかつかまらなかった。授業以外教室にもおらず放課後友人たちと交わるでもなく急いで帰宅しているらしい。
地味すぎるだろ。
数日たって、ようやく中庭でクロエを見つけたのだった。




