12.今日は一緒に
ホールでは両国の学生たちが親し気に談笑していた。
一日を通して交流を深められたようで、「今度ぜひセイロンの我が領にもお越しください」と約束を交わす者たちもいる。
「ダニエル様!遅いです、はやくこちらへ!」
クリスティーヌがグレッグ達生徒会仲間と寄ってくる。
クロエはそっとダニエルの腕から離れようとする。
「どこへ行く?」ダニエルはクロエの手をつかみなおす。
「え?いつもの定位置につこうかと…」クロエは壁際を指さす。
「今日は一緒にいるんだ」
(えー…サラ達と話の続きをしたかったのに…)
「おや、ダニエルは改心したのかな。でもクロエ嬢は嬉しくなさそうだね。」グレッグは面白そうだ。
「まあなんてお兄様は意地悪な事を!ダニエル様、一日お疲れさまでした。ダニエル様のご配慮が行き届いた素晴らしい一日でした。さすがです」クリスティーヌはダニエルをうっとりと見つめる。
(あ、そうだった、確かにダニエル様はずっと働きずめだった。今日の責任者だからだ。労わる事もできないのは、それはだめだな)とクロエは反省する。
「ダニエル様、今日まで大変お疲れさまでした。とても良い会だったと思います。私も一日楽しかったです。ありがとうござました」
クロエは素直にダニエルに礼を言う。
「まあ、当たり前の仕事をしたまでだ。…まあ…その…ありがとう…」
段々声が小さくなるダニエルに、グレッグはにんまりする。
「これはこれは…」余計なことを言いそうな予感に、ダニエルはグレッグの喉輪をつかむ。
「ぐえっ、俺はまだ何も言ってない‥」
いつもと違うダニエルが気にいらないクリスティーヌはクロエを睨む。
「ところでクロエ様、前回の交流会は不参加でしたね。酷いですわ、ダニエル様をお一人にされるなんて。もちろんダニエル様はいつものように私とご一緒だったので、楽しい時間をお過ごしでしたけど。貴女様は婚約者の責も果たさず、一体何をされていたんですか!?」
労わるようにウルウルとした瞳をダニエルに向けた後、クロエに向き直る時には意地悪げな表情に変わっている。
ダニエルもグレッグも質問の答えを聞きたそうにしていたので、クロエは胡麻化すことができなかった。
「…実はセイロンのギルド大会に行ってました…」怒れるかとびくびくしながらクロエは答える。
「それって、我が国の職人たちも憧れる大会だろ?それを見に行ってたのかい?クロエ嬢はそういう趣味があったのか。予想外だなあ」驚いたようにグレッグが手を広げる。
「はい…あのう私、靴が大好きで…尊敬する職人さんもいて…マイスターマイケルさんっていうんですけど、その方に勧められて…」
「マイスターマイケルって有名な方じゃないか。知り合いなのか。勧められたら見てみたくなるな。行動力あるんだねえ。実際見た感想はどうだった?」
「すごく大規模で熱気にあふれた大会でした。物作りの国として、国中の人が職人さんをリスペクトしているのが感じられて、とっても楽しかったです!」
好きな話題にわくわくした表情で話し出すクロエに、ダニエルもグレッグも目を奪われる。
「やっば、今のかわいい」
つぶやくグレッグにダニエルは再び喉輪をくらわす。
全くもって面白くないクリスティーヌは喰ってかかる。
「なによ、そのマイスター…マイマイなんとか、知らないわよ!靴なんて外商に来てもらって選ぶだけでしょう、それをわざわざセイロンまで!ダニエル様がお可哀そうだわ!」
ダニエルの腕にしがみつくクリスティーヌ。
「おい、やめろ、はなせ」ダニエルはクリスティーヌをひきはがそうと、クロエの手を放す。
「そうですね…申し訳ありませんでした」しょんぼりとするクロエは、いたたまれず、
「お邪魔しました、失礼します」と頭を下げて逃げるように立ち去ってしまった。




