11.戻った日常+気づきのダニエル
結果として、授賞式でクロエの名前は呼ばれなかった。
「残念よねえ。観客の受けは一番よかったのに。あの後たくさんの女の子たちが集まってきて、『私も履きたい!』って言ってくれてたのにね。特別賞ぐらいくれたっていいじゃない」
「まあ、実際私の技術はまだまだなんですよ。見る人が見れば、一目でわかります。審査は公平ってことですよ。」
二人は学園の教室で、お互いの婚約者が迎えに来るのを待ちながら、大会の事を思い出していた。
今日は隣国の姉妹校との合同講演の日だった。ダニエル達生徒会が中心となって長い間準備に追われていたイベントだ。彼らの努力のかいもあって、一日の予定は滞りなく進み、あとは両校の合同のパーティーのみだ。
「審査委員長に失格にされなかっただけ、有難かったのかもしれません。でも、帰りに、コーディネーターの方から、『来年のご参加も心から楽しみにしていますよ』って言ってもらえて、嬉しかったです。」えへへと笑うクロエに、サラは呆れる。
「そんなことで…ほんと野心のない…まあそれで満足しちゃうのは貴女らしいわね。私なんて、『ダンス素敵でした、憧れます』って数人からサイン求められたからね。少し本気出したら、ファン出来ちゃったわ。おほほほ」サラの高笑いが響き渡る。
「それで、マイスターマイケルには報告したの?」
「はい。結果は予想通りだと言ってました。あと、ピンチの時とっさに師匠の名前出した事あやまりました。どうかギリ怒られませんようにって保険かけるのに、利用しました」
「そういえば言ってたわね。ご師匠は、なんて?」
「姑息さは反省しろと。運針千本ノックを1か月です」「やだなにそれ、地味に怖い」
そうこうしているとカイが現れる。
「お待たせ、サラ。クロエのお相手はまだのようだね。」
「はい、いつもの事です。」にっこりクロエは笑う。
「それにしても、帰国した後以前と変わらない日々で拍子抜けしたよね。ギルド大会での君の活躍が、学校の皆に伝わっていない事が寂しくてたまらないよ。」
「仕方ありません、作品で認めてもらえるよう、精進します」
あー、でも!と、サラが思いついたように手を打つ。
「私ね、貴女の新しいキャッチコピーを思いついたの!『エスコートを忘れられたクロエ』改め、『エスコートのいらないクロエ』。貴女の作る靴にもピッタリ」
「えええ恥ずかしい!てか私のキャッチコピーって何なんですか!」とクロエは目を白黒させる。
「いいね、それ。自分の足で立ちたい女性たちの共感をえられるね。良かったね、クロエ」
カイはクロエの頭をくしゃくしゃなでる。もう、二人とも面白がって…
でも、この二人がいてくれて、本当に良かったとクロエはつくづく思った。
ちょうど到着したダニエルは、和気あいあいとした三人の様子に面食らっていた。
(いつも一人ぼっちで地味なあいつが、いつの間にあの二人と仲良くなったんだ?)
つい、声をかけるタイミングを失う。
カイがクロエの頭をなでるのを見ると、感じたことのない苛立ちを覚えた。
(人の婚約者に気やすく触るなんて)
「クロエ!」つい大声で呼んでしまう。「生徒会の仕事がようやく終わったんだ、遅れそうだからもう行くぞ」ダニエルは、カイから引き離したくてクロエを急かしてしまう。
「はい、ダニエル様!」ご機嫌なクロエは満面の笑顔でダニエルに答える。
(え、こいつこんな風に笑えるの?)
初めて見る生き生きとしたクロエに、ダニエルの思考は停止する。
今までは、前髪の隙間からこちらを伺うように細められていた瞳が、今は大きく開かれ、ダニエルを見つめながら愉快そうに揺れている。
口元は笑いをこらえているような…あれ、そんなに血色のいいピンク色の唇をしてたっけ?口角上がると、一気に雰囲気変わるんだな…それになんで頬っぺたもそんなにつやつやしてるんだ?
「ダニエル様、遅刻しますよ」
「ちょっと待ってくれ、ここは空気が悪いのかな、なんか酸素が足りなくて胸が…」
「さあ、行きましょう!」
先に行くクロエに、よろけながらダニエルがついていく。
「おやおや、とうとうクロエがエスコートする側になっちゃったね」
「そうよ、乙女の進化は早いのよ。カイ様も油断しないでね」
「ははは肝に銘じよう」




